●シナリオ2:生き残る特殊エンジニアリング企業

 日本企業の“モノづくり力”と“コトづくり力”の競争力は高まるが、“真のグローバル化”が遅れるケースである。ここで言う“真のグローバル化”とは、単に現地法人を世界中に持つという意味ではなく、本社と現地法人のネットワークがしっかりでき、人材面でも多国籍人材がグローバルスケールで適材適所になっている状態を意味する。

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大滝 令嗣(おおたき・れいじ)
早稲田大学ビジネススクール教授。専門はグローバル経営、人材・組織。 東北大学工学部卒業、カリフォルニア大学電子工学科博士課程修了。東芝半導体技術研究所、ヘイコンサルティング・コンサルタント、マーサージャパン・シニアコンサルタント等を経て、1988年 マーサージャパン代表取締役社長、2000年より代表取締役会長兼アジア地域代表。 2005年にヘイコンサルティング・アジア地域代表、2008年にエーオンヒューイットジャパン代表取締役社長、2009年より同社の会長を務める。早稲田大学では2006年より教鞭をとり、2011年から現職。他にシンガポール経済開発庁ボードメンバー等を歴任。

連載第4回で述べたグローバル化の形態別に見ると、「グローバル企業」の形態をとる会社では、本社の方針や戦略が世界中のオペレーションにしっかり伝わってグローバル最適が出来ている状態を“真のグローバル化”と定義できる。

 一方で、「トランスナショナル企業」の形態をとる会社は本社と現地法人がパートナーとしてつながり、現地法人同士でもナレッジやコンピタンスが共有されている状態である。このシナリオでは、“真のグローバル化”が進まないために、本社は現地のニーズをなかなか汲み取ることができない。すると、どうしても本社が得意とする製品やサービスに頼った経営になってしまう。

「こんな素晴らしい製品やサービスなのだから必ず世界に受け入れられるはずだ」という考えが先行し、判断を誤る日本企業が続出する。模倣や代替が容易なサービス業の生き残りは楽観できないため、一部の部品や素材において他社が到底真似のできないモノが作れる日本企業のみが存続し、世界標準の地位を獲得する日本企業も一部には出てくるだろう。ただし規模は小さいので雇用面は期待できない。

 現状の日本企業の多くが、このシナリオへの流れを感じていることだろう。今何もしなければ、恐らく多くの日本企業はこのシナリオを選択したことになり、競争力を失った製品やサービス分野から徐々に撤退し、特殊部品、高機能素材、特殊サービスなどの分野に追い詰められていくことになる。

●シナリオ3:アジア化する日本企業

“モノづくり力”と“コトづくり力”では競争力を失う日本企業だが、“真のグローバル化”は進行する。特に、アジア市場とアジアの人材を活用することで世界市場を狙っていくシナリオだ。これまで日本経済を支えてきた多くの産業は、日本国内市場の縮小の流れを感じている。そのため、欧米やアジアにおけるM&Aを積極的に進めている。しかしながら、海外の会社を買っただけでは“真のグローバル化”を進めたとは言えない。

 このシナリオでは、今後、日本企業が多国籍の人材を活用することで統合の度合いを強め、シナジー効果を高めることを想定している。そして多くの日本企業にとって、当面の焦点はアジア市場における成長であろう。