●心身の健康を増進させる慣行を策定し、奨励する
就労者のストレス度は上昇している。リージャスグループが100ヵ国2万2000人以上のビジネスパーソンを対象に実施した調査では、その過半数(53%)が「自分は5年前の状態よりも燃え尽きに近づいている」と回答している(英語サイト)。
ストレスは人から人へ伝染するが、その逆もまた真である。つまり、チームメンバーの誰かが心身の健康(well-being)を感じていると、その効果はチーム全体に波及するようだ。ギャラップは2012年、105チーム1740人を対象に、6ヵ月ずつ3期にわたって調査した。その報告によれば、最初の6ヵ月間でチームに心身の健康を感じているメンバーがいた場合は、そうでないチームよりも20%高い確率で、その半年後に他のメンバーたちも充実感を感じるようになったという(英語サイト)。
ここから、次の教訓が得られる。マネジャーは、どんな活動が自分とチームの心身の健康を高めるかを理解し、それらを優先させる必要があるのだ。
たとえば、自己開発の手段としてマインドフルネス(目の前の瞬間に意識を集中させることで、惰性から脱却し能動的に気づきを得るプロセス)や再起力向上の研修を提供してもよい。運動や気分転換になる活動(例:歩きながらの会議)の時間を取るよう、はっきりと口に出して勧めるのもよい。あるいは、チームメンバーが無理のないペースで柔軟に働けるように、提出物のスケジュールにバッファタイム(予備の時間)を組み入れるなども考えられる。
●勤務時間外には完全なオフを認める
経済協力開発機構(OECD)のデータによれば、世界各地の就労者は毎週平均34~48時間を仕事に費やしているが、その多くは就業時間の終了後も仕事や関連活動に従事している(OECDサイト)。『マッキンゼー・クォータリー』から一節を引用すれば、「常時オンでマルチタスクに満ちた職務環境は、生産性を削ぎ、創造性を阻害し、人々を不幸せにしている」(英語論文)。これまで私は、大小さまざまな企業における従業員意識調査を見てきたが、最も重大な調査結果の1つは、従業員が仕事を遮断することにかなり苦労しているという実態だ。
高いパフォーマンスを奨励する社風の厳しさが、従業員に弛まぬ集中を求めるのかもしれない。しかし「常時オン」であろうとすることは、回復時間を考慮していないので危険かつ非生産的な発想だ。最高のチームに所属する最高のアスリートでさえ、休憩して回復するための時間を要する。
したがって、チーム(そしてあなた自身)が職場やデジタル上で仕事に従事すべき時間帯を、慎重に考えよう。そして、仕事から離れるべき時間についても同様に意識を高め、はっきりと伝えなくてはならない。たとえば、午後8時以降や週末は仕事のメールをしないよう取り決めてもよい。
●混沌に対処できるよう、脳を訓練する
脳神経科学の研究成果によれば、マインドフルネスを実践すると、脳が体系的に鍛えられ、職場(そして日々の生活)での再起力と生産性を高める思考習慣が生まれる(「マインドフルネスは脳を健全に保つ」を参照)。我々ウィズダム・ラボ(幸福な働き方の促進を支援する会社)の経験では、マインドフルネスを修得するために脳を訓練しているリーダーとチームは、よりうまく協働し、より効果的にストレスを乗り切り、高いパフォーマンスを維持している。
再起力は生来人間に備わっている能力だが、あなた自身がマインドフルネスの達人にならなくても、自分とチームの再起力向上を助けることはできる。テクノロジーをうまく利用すればいいのだ。まずはマインドフルネス関連のアプリや機器をいくつか自分で試してから、チームに紹介するとよい。お勧めのアプリにはCalm、Headspace、Museなどがある。
●集中を助けるために「モノタスク」を重視する
マルチタスクというのは誤った通念である。人間は(コンピュータとは違って)複数の作業を効果的または効率的に並行処理できない。脳神経科学者にして教育研究者、著述家でもあるジョアン・ディーク博士の記述によれば、マルチタスクは概して「各タスクの遂行時間を倍増させるだけでなく、大抵はミスの数を2倍かそれ以上に増やす」。人間が最も得意とするのは「モノタスクの連続」なのだ。
マネジャーは次の方法でモノタスクを後押しできる。
・成果物について、どのタスクを優先すべきかを1度に1つずつ、明確に示す。
・節目ごとの目標を、時期的に重ならないように設定する。
・「緊急」と「重要」を混同しないよう常に注意する。
●1日の就業時間中に「空白時間」、および1年間の業務過程に「緩和期間」を、意図的に設ける
業務活動に閑散期や中休み的な状態がある場合、その間に従業員が一息ついて鋭気を養えるよう方策を検討しよう。そうした期間がない場合、マネジャーは何とかしてチームが落ち着けるサイクルをつくるべきである。
マイクロソフトの元バイスプレジデント、リンダ・ストーンによれば、人間には「常にリアルタイムで仕事に携わっていよう」とする1つの傾向がある。この「どこからでも、いつでも、どの場所でも常時オン」の行動様式がもたらす結果が、「恒常的な注意力断片化(continuous partial attention)」であり、この状態はベストではなく不満を感じさせるという。したがって、活力と集中力を取り戻すためのバッファタイムを設ける必要があるのだ。
経営コンサルタントで著述家のトニー・シュワルツの提言によれば、「仕事はマラソンではなく、一連の短距離走であり、その合間には回復・再生の時間(たとえば、90分間の集中後に10分間の休憩)が必要」で、このことをマネジャーは理解すべきだとしている。重要なのは労働時間の長さではなく、労働時間中に生み出す価値である。
マネジャーは従業員が何時間デスクにいるか気にするのをやめ、代わりにこう考えよう。その人が勤務中に「本当の仕事」ができるように、スケジュールの設計をどう支援できるだろうか、と。
●共感と思いやりを示す
親切であることにコストは一切かからないうえに、マネジャーにとってのメリットは絶大だ。共感と思いやりを示せば、従業員のパフォーマンス、エンゲージメント、そして収益性が著しく向上する。
ニューサウスウェールズ大学が77組織5600人を対象に実施した、重要な研究プロジェクトがある(英語サイト)。その報告によれば、「組織の収益性と生産性に影響を及ぼす最大の要因は、リーダーが次のことにどれほど時間と努力を費やせるかである。従業員の能力開発、貢献への評価、批判を含むフィードバックの積極的な受容、そして従業員間の協力の促進だ」
同研究からは、次のことも報告されている。リーダーが思いやりを示す能力、つまり「従業員の動機の源泉、要望、抱えている困難を理解し、彼らが力を最大限発揮できるように適切な支援メカニズムを形成する」能力が、収益性および生産性と最も強い相関関係を持つという。共感と思いやりは従業員のためにもなり、ビジネスにもプラスとなるのだ。