新陳代謝の鍵は「つなぐ人」

日置 ドミナントデザインを解くところから代謝を考えるのは、日本企業にはよい切り口ですね。産業の中での効率性や、「ハッピーセパレーション」を含めて持つべき事業を見極めながら、組織と技術をつないでいくことで新しいものを生み出していくことにも併せて取り組まなければ代謝は進まないので。

入山 「割り切って捨てる能力」と「つなぐ能力」は両方とも必要です。日本企業は、ポートフォリオのように事業を入れ替えることが得意でないとしても、社内で横をつなぐ動きはできる、むしろ本来は得意なのかもしれません。

日置 そうですね。以前に話したデュポンが事業横断で顧客のニーズに合致する製品や技術を提案していくイノベーションセンターを作ったのも日本人だと聞いています。

入山 グローバル企業は入れ替えによる成長や利益確保に偏って見られがちですが、たとえばIBMには、事業横断で回遊して、つなぐことをミッションにしている人がいるそうですね。

 組織学習を高めるためには、トランザクティブメモリーという「誰が何を知っているか」がわかっていることが重要といわれているのですが、最近のAcademy of Management Journalで、そのトランザクティブメモリーは組織全体に浸透しているほうがよいのか、それとも特定のハブになるポジションに集約されているほうがよいのかという研究があり、後者のほうが重要という結果が得られています。回遊する人がトランザクティブメモリーの専門家みたいになっているほうが効率的といえるでしょう。

日置 IBMに限らず他のグローバル企業でも、そのようなハブになるポジションを定義していると聞いたことがあります。実は、何十万人という従業員の中でもわずかしかいないそのポジションの人々が、企業全体の業績を決めているといえるのかもしれません。

入山 日本企業で業績を決める人というと、偉大なリーダーか、製品のコアになる技術を作り出した研究者か、とイメージしてしまうけれど、つなぐ人が業績を決めているというのは意外で面白いですね。

日置 さらに大事なのは、そのつなぐポジションが企業の中で重要な仕事であると認識されることです。日本企業では、シニオリティ(年長者)に対する尊敬はあるけれど、ポジションに対する尊敬はあまりないような気がします。一方、グローバル企業では、つなぐポジションは、必ずしもマネジメントライン(経営層への昇進過程)でなくとも、重要で、能力の高い人が就いているんだという尊敬があります。規模の大小問わず、事業や機能毎の「サイロ」に陥っている日本企業は多いわけですが、そんなことしている余裕はないはずなのですけれどね。

入山 つなぐというポジションがあって、さらにそこに就く人が尊敬されることで情報も自然と集まって、そこにナレッジが託されるようになると、つながりから新しいものを生み出していけますね。

日置 終身雇用で事業も人材も切れないから変われないと社会のせいにするばかりでなく、技術や事業をつなぐことで新しいものを生み出し、代謝を促していく。日本企業の新陳代謝の1つのモデルになりそうです。