ドライバーには、好きな時に仕事にログイン・ログアウトする自由がある。しかしいったんオンラインに参加すれば、プラットフォーム上の活動は厳重に監視される。このプラットフォームを通じて、半自動化されたアルゴリズムのシステムに――そして乗客にも――働き手を管理する機能が「再配分」されるのだ。
そしてアルゴリズムによる管理の下では、働き手に対する期待事項、および実質的な権限の所在をめぐって、かなりの曖昧さが生じうる。ウーバーは供給(ドライバー)と需要(乗客)の仲介役という、中立性を謳うブランド戦略を採っている。それによって、同社のソフトウェアプラットフォームに見られる雇用形態とヒエラルキーの重要な側面が、歪曲されているのだ。
●料金を設定するのはウーバー側
乗客が支払う料金、ドライバーの取り分、ウーバーが取るコミッションは、ウーバーが一方的に設定・変更する全権を握っている。ウーバーが「パートナー」と交わす契約の第4章1節によれば、同社が設定する乗車料金はあくまで「推奨される」金額だ(厳密に解釈すると、ドライバーは所定の料金よりも値下げする権利を持つが、値上げはできない)。だが実際には、ドライバーがウーバーのアプリ内で乗車料金を交渉する手段は皆無である。
●成果目標を設定するのはウーバー側
ウーバーの3つの主要な成果指標は、乗客がドライバーに下す評価、乗車回数、乗車キャンセル数である。基本的にウーバーがドライバーに求めるのは、高い乗車率(80~90%)、低いキャンセル率(2015年7月時点のサンフランシスコでは5%)を維持することだ。それを達成できなければ、プラットフォームでの稼働中止(一時的な停止、または永久的な解雇)となる可能性がある。
乗客の行先と収入額の見込みは、ドライバーに事前に示されない。このシステムは乗客の盲目的な受け入れを強いるものだ。たしかにこれは、行先による選り好みの防止につながり、ウーバーは特長の1つとして売り込んでいる。だが一方で、ドライバーは乗車を受け入れるたびに、最低料金(各都市で異なる)にしかならないという可能性に直面し、事実上の経済的リスクを負うことになる。
たとえばジョージア州サバンナでは、ウーバーX(一般人が自家用車で行うサービス)の最低料金は5ドルだが、これはドライバーからすれば採算に合わない。なぜならウーバーが売上金から1ドル60セントの手配料(正式には「安全乗車」料)を差し引いた後、残る3ドル40セントから20%かそれ以上のコミッションを取るからだ。するとドライバーの手元に残るのは2ドル72セントで、ガソリンその他の経費をまかなえない。
●客がマネジャーとなる
ウーバーの評価システムは、パフォーマンスの悪いドライバーを自動的に割り出して警告を与える。乗客は毎回、ドライバーを1から5段階で評価するよう促される。このフィードバックが即時かつ頻繁なパフォーマンス評価となるわけだ。これによってウーバーは働き手のパフォーマンスを追跡でき、働きが悪い人に介入できる。
ドライバーはウーバーのシステム上で稼働資格を維持するためには、5つ星評価のうちおよそ4.6程度の平均目標値に達しなければならない。
この評価システムには、プラットフォームの信頼性と説明責任を確立し拡大できるというメリットがある。しかし欠陥もある。乗客は概して、ウーバーの評価システムについて十分な知識を持っていない。したがって5つ星のうち4を「高評価」と見なし与えるかもしれない。だが実際には、4程度では落第点なのだ。
また、差別の可能性も懸念される。法が企業に禁じている選好・偏見(たとえば性別、年齢、人種による判断など)を、消費者はドライバーに対して直接行使できるからだ(英語報告書)。
ドライバーは高い評価を得るには、高度に均質化されたウーバー体験を提供すべく自身の行動様式を調整しなければならない。ウーバー側はいくつかの方法で、業務の均一化を促している。たとえばウーバーの研修ビデオでは、5つ星ドライバーは携帯電話の充電器やボトル入り飲料水を提供するとしている。
またドライバーに向け定期的にメッセージを送信し、特定の行動に関する乗客の評価傾向を説明している。たとえばこんなアドバイスだ。「要求されている以上の行動によって、特別な体験を提供しましょう。可能であれば乗客のためにドアを開ける、などです」「乗客にお好みのルートがあるか尋ねましょう」「乗客は、乗車中に他のビジネスを宣伝しないドライバーを好みます」
マネジメント上の監督行為と権限が、定型的な経営体制から分離され、「事業主・働き手・消費者」から成る3者関係の間で再配分される――。これはオンデマンド経済における大きな潮流の一部であり(英語論文)、特にサービス産業で顕著となっている(英語論文)。ここでは「お客様はいつも正しい」というフレーズに、より大きな利害を伴う新たな意味が付されるのだ。