●スケジュールを提案・左右するのはウーバー側

 あなたもウーバーのサージ・プライシングのモデルについてはよくご存知だろう。供給(ドライバー)に対する需要(乗客)が特定の閾値を越えた時点で発動する。このような区域を設けて乗客とドライバーの両方に明示することで、ドライバーに出動が促されて稼働車数が増え、顧客体験の向上につながる、というのがウーバーの謳い文句だ。

 しかし一部の証拠によれば、この方法は「すでに稼働中」の車を、需要急騰の地域にただ「再配分」するだけだという(英語記事)。

 ドライバーには、急騰地域がヒートマップを通して告げられる。そこには需要と料金の一時的な上昇が、1.5倍~9.5倍の範囲で色分けされ示される。このアラートによってドライバーは、システムへのログイン、あるいは(「ログオフ」ボタンをまさに押そうとしている時でさえ)稼働の継続を促される。「この地域に行って、割増運賃を手に入れよ」と。

 一部のドライバーは、自分たちを特定の区域内に導くこのシステムを「群れ集めのツール」と呼ぶ。ドライバーに対してメールかテキストで、急騰(割増料金の発生)が予測される地域が事前に通知される。

 だが我々の調査結果によると、サージ・プライシングは往々にして、賃金の増加を保証しないのだ。

 価格設定は乗客の居場所に基づいている。提示された割増料金を求めて急騰地域に向かっているドライバーは、急騰対象外の近隣地域で乗車依頼が生じれば、その客を拾わねばならない。さもなければ、キャンセル率が上昇する危険を冒すことになる。

 また、ドライバーは大挙して急騰地域に向かうため、到着する頃には供給不足は解消し、料金割増が消えているという場合もある。フォーラムでは、多くのドライバーが他の参加者たちに「急騰を狙うな」と忠告していた。

 とはいえドライバーたちは、急騰を狙うに値するタイミングを独自の方法で見込んでいる。急騰地域の近くにいる時のみ参加する人もいる。あるいは町内で急騰しやすい、特定の場所と時間帯を選んで稼働する例もある(飲み屋街やコンサート会場が閉まる時間など)。

 急騰を告げるメッセージの他にも、ウーバーはさまざまなインセンティブやメッセージ送信を駆使して、ログオフ中のドライバーにも特定の時間帯や場所に出動するよう働きかける。その結果、たとえ稼働時間が「指定」ではなく「奨励」であるとはいえ、実態は「シフト勤務」に等しいという状況も生じてしまうのだ。

 仕事と自動化の未来に関する議論では、雇用の消失にばかり焦点が当てられがちだ。働き手の管理と調整を自動化するプラットフォームのあり方は、労働にどう影響を及ぼすのか――この点に関する考察は、始まったばかりである。

 5段階評価システム、パフォーマンスの指標と方針、アルゴリズムに基づくサージ・プライシング、執拗なメッセージ送信と行動喚起。自社のシステムは単に市場での需要を示すだけだと主張しながら、ウ-バーはこうした「選択設計(choice architecture)」の諸要素によって、実際にはドライバーを特定の時間に特定の場所で働くよう誘導できる。「ドライバーは自立した働き手であり、その就労機会は中立なソフトウェアプラットフォームによる仲介を通じて生み出される」というのが同社の主張だ。しかし、これらの自動化されたアルゴリズムによる管理ツールをふまえると、その文言をそのまま受け入れるのは難しい。

 自動化によって、マネジメントの役割はさまざまな面で曖昧になりうる。だが我々の調査が示すように、アルゴリズムによる管理と働き手の自立性は同じではない。働き手と事業主の関係を自動化して、拡張可能で標準化されたサービスを消費者に提供したい――そう望む企業に対し、ウーバーのモデルは明らかに、新たな課題を示している。


HBR.ORG原文:The Truth About How Uber’s App Manages Drivers April 06, 2016

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アレックス・ローゼンブラット(Alex Rosenblat)
マッカーサー基金が支援するプロジェクト、データ&ソサイエティのリサーチャー兼テクニカルライター。インテリジェンス&オートノミー・イニシアティブを担当。