では、個人と組織はこのプロセスをどう歩めばいいのか。ゼネラル・エレクトリック(GE)を例に検討しよう。
●新しいつながりを築く
外に出て周囲のエコシステムにしっかり触れなければ、自身が属するエコシステムの実態はわからない。GEのバイスチェアを務めるベス・コムストックを例にとろう。現在、GEベンチャーズを統括する彼女の仕事は、GEのエコシステムを成長させること、それによって利益を得ることだ。しかし彼女はその役割に就くずっと以前から、常に人と会い、さまざまな都市を飛び回り、イベントをいくつも主催していた。外に出て新しいつながりを築くことこそ、自社に価値を創出する方法であると、彼女は心得ている。
●潜在的なパートナーとの間にチャネルをつくる
このチャネルは商取引そのものである必要はない、というよりも、あるべきでない。コラボレーションがどう生じるかを知るためのものだ。
たとえばGEとGEベンチャーズは、有望な新興企業を積極的に探しチャネルを築いているが、単に投資対象として見ているのではない。両社はレッドウッドシティに「オープン・オフィス・アワー」という制度を開設して、シニアレベルの専門家たちが新人の起業家に講習を行っている。ボストンでは、考え方を共有するアクセラレーターたちとのパネルディスカッションを主催。そして全米各地にある、新たな価値創造のホットスポットでも同様の支援活動に取り組んでいる。
●他者とパートナーを組む
GEとGEベンチャーズは、新しいパートナーを絶えず探している。同社のポートフォリオには現在61社のスタートアップが名を連ね、その分野はエネルギー、ヘルスケアから製造業まで実に多岐にわたる。そして提携の対象には、成熟した組織も含まれる。たとえばサンタクララ大学のミラー社会起業センターとの提携では、健康問題の新たなソリューションを模索しながら、トレーニングとメンタリングによる価値向上にも取り組んでいる。
もちろん、時には失敗に終わることもある。その1例が、ニューヨークの製造スタートアップ、クワーキーと結ばれ大いにもてはやされた提携だ。2015年、クワーキーの破産申請を受けてGEは、「クワーキーによってGEの評判が傷つけられた」と主張した。
時折あるこのような結果は、ビジネスにおいてはどうしても避けられない代償だ。エコシステムのいたる所で新たなパートナーシップを推進していく意欲を、多少の失敗でなくすべきではない。GEベンチャーズの意欲も衰えていない。
●継続的な行動を後押しする
GEはアクセラレータープログラムとの継続的で活発な関係を築くために、時間と資金、その他のリソースを投資している。その対象はホノルルでの「エネルギー・エクセレレーター(Energy Excelerator)」からピッツバーグでの「ロボティクス・ハブ」に至るまで、広範な分野と地域に及ぶ。その成果として、GEとパートナーたちの間でアイデア、価値、イニシアティブの交換が継続的かつ複合的に行われる。そして、それらが互いにうまく合致することもままある。関係者全員が連絡を取り続け、情報をあちこちに伝え合うからだ。
このエコシステムの各参加者が得る成果は、独力で目標を追求する場合よりも悪いわけはなく、相互のつながりによってはるかに大きくなりうる。
上記の取り組みは、GEのように巨額の予算を持つベンチャー投資部門がなくても実現できる。それを示すのがグレッグ・ゴップマンのエピソードだ。
どんな手段を持っているのであれ、とにかくそこにエコシステム思考の原則を適用すればよい。すなわち、外部に手を伸ばし、チャネルを築き、パートナーを組む。そして自分の大義に賛同する人をエコシステムのあちこちから集結させ、前進するのだ。
これを実行すれば、自分のソリューションが新たによみがえることに気づくだろう。それはより複合的になり、エコシステム全体に行き渡り、より強固となる。そして激しい変化と複雑化が進むこの現代社会で生き残るために、いっそう適したソリューションとなるのだ。
HBR.ORG原文:How an Ecosystem Mindset Can Help People and Organizations Succeed May 12, 2016
■こちらの記事もおすすめします
ニューヨーク・タイムズはなぜ、変わりきれなかったのか
大企業のオープンイノベーションには4つの類型がある
オープン・イノベーションの広がりは技術分野に留まらない

ジョン・ジェラーチ(John Geraci)
アントレプレナーシップの専門家。ニューヨーク・タイムズのデジタル商品部門の元ディレクター。起業・ベンチャーの分野で10年以上の豊富な経験がある。