とはいえ、破壊理論は当然ながら、戦略上のあらゆる問いに答えるものではない。実はクライアントからしばしば驚かれるのだが、当社は「あるアイデアが破壊的か否か」に関する独断的な明示はしない。なぜならまず、世界はそれほど単純ではないからだ。さらに、あるイノベーションが破壊的か否かは真に本質的な問いではなく、「そもそもアイデアとして優れているかどうか」のほうが重要だからである。
優れたビジネスアイデアには3つの要素がある。
まず、真の市場ニーズを狙っていること。ただし、そのニーズは顧客自身にさえうまく説明できないものかもしれない。次に、現在および未来の競争のさなかでも、着実にそのニーズに応えていけること。そして最後に、採算が合い、会社が価値を創造できるだけでなく、価値の獲得もできることだ。
その他のすべては理論にすぎない。
ビジネスの世界は複雑だ。人が下す判断には、はたから見れば不可解と思えるものも多くある。その成否を正確に予測するのはほとんど不可能である。そして、業界を変えるための戦略的実験を、完全なコントロールの下に実施するのも不可能に近い。いまもこれからも、破壊的イノベーションのモデルはけっして完璧とはならないのだ。
クリステンセンと共著者らは論文でこう述べている。「破壊理論は、イノベーションに限っても、あるいは広く事業の成功全般に関しても、けっしてすべてを解き明かすことはないだろう」。私も同意見である。ただし、戦略担当者にとって、これまでとは違う領域を違う角度から見る一助になるという点には疑いの余地がない。
破壊理論に求めるべきは、それこそがすべてであろう。
HBR.ORG原文:How Understanding Disruption Helps Strategists November 18, 2015
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スコット・アンソニー(Scott Anthony)
イノサイトのマネージング・パートナー。同社はクレイトン・クリステンセンとマーク・ジョンソンの共同創設によるコンサルティング会社。企業のイノベーションと成長事業を支援している。主な著書に『イノベーションの最終解』(クリステンセンらとの共著)、『イノベーションへの解 実践編』(ジョンソンらとの共著)、新著に『ザ・ファーストマイル』がある。