裕福であることは、心理的にも物理的にも人を孤立させる。ある研究によれば、富――より一般的には、高いステータスを示す財産――を獲得した人は、他者と(心理的・物理的に)距離を置きたくなる(英語論文)。心理面の一因としては、富やステータスを獲得する際に生じる競争心や利己主義がある(英語論文)。

 また別の理由として、かつては生き抜くために他者からの助けが必要だったが、貧しさから脱した後は不要になったからなのかもしれない。カリフォルニア大学ロサンゼルス校のパトリシア・グリーンフィールドと、同大学バークレー校のダーカー・ケルトナーは、各自別々の研究から同じ結論に至っている。人は裕福になるほど、独立性をより重視するようになり、社会的なつながりを軽視するという傾向があるというのだ(英語記事)。

 物理面についてはきわめてわかりやすい。富裕者になるほど、他者との間に境界を設けようとする。より大きな家に住み、周りを塀で囲んだりするのもその例だ。

 私自身も、富による物理的距離の影響を体験したことがある。博士課程の貧乏学生だった自分が、多少は余裕を持てる教授になった時のことだ。学生時代は、他の3人の同居人とアパートで暮らし、リビングルーム、キッチン、バスルームを共有していた。そして教授になると、寝室2つのアパートに引っ越して1人暮らしを始めた。

 住居が広くなって、より幸せになったと思われるかもしれない。確かにそうだった――わずか数週間の間は。諸研究の結果を体現するかのように、私は周りの空間にはすぐに馴染んだが、1人きりでいることには慣れなかったのだ。そして無性に仲間が欲しいあまりに、友人たちの家に押し掛けることになった。

 複数の研究で繰り返し示されていることを踏まえれば、これは驚くに値しない。私たちは極めて、というより耐え難いほどに、社会的な生き物なのだ。つまり、人は有意義で親密な関係を少なくとも1つは持っていなければ、本当に幸福にはなれないということだ(英語論文)。社会関係がより豊かな生活を送るほど、より幸せを感じやすい。

 ちなみに、前掲のダンとノートンの共著では、(モノではなく)体験や時間を得るためにお金を使うと、幸福感が高まるという研究を取り上げている(例:ハウスクリーナーを雇って、その分の時間を他の何かに充てるなど)。私たちが「体験」と「自由な時間」を、愛する誰かと共有しようとする傾向は偶然ではないわけだ。

 これまで述べてきたことの結論は、金持ちは幸せになれないということだろうか?

 そうではない。ただし、富とステータスの獲得に伴って生じやすい諸々の傾向を、防ぐよう注意しておくのが賢明と言える。

 そして幸福にもう1歩近づきたければ、寛大さを持って、得たものの一部を他者に与えればいい。


HBR.ORG原文:Why Rich People Aren’t as Happy as They Could Be June 08, 2016

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ラジ・ラグナタン(Raj Raghunathan)
テキサス大学オースティン校マコームズ・スクール・オブ・ビジネス教授。著書にIf You're So Smart, Why Aren't You Happy?がある。『ジャーナル・オブ・コンシューマー・リサーチ』『ジャーナル・オブ・マーケティング』、および『ジャーナル・オブ・コンシューマー・サイコロジー』の編集委員も務める。