大きなイノベーションは数世代起こらない
高岡:イノベーションは簡単には起こらないんですよね。弊社の看板商品の「ネスカフェ」も、80年以上前にできた商品です。コーヒーを飲むのが大変だった時代に、誰でも手軽に飲めるコーヒーを世に出した。でもその後、革新的な一杯抽出型のコーヒーマシンが誕生するまでは、長期にわたり品質の改良というリノベーションを続けてきました。
テレビもそうです。テレビができる前は、動画を見るには映画館に行かなければいけなかった。その時代に、アンケート調査しても、誰もテレビが欲しいなんて答えませんよね。テレビの存在を知らないし、自宅で動画を見たいという自分のニーズにも気付いていない。だから、テレビの誕生はイノベーションだと思うのですが、その後、白黒がカラーになったことも、薄型になったことも、イノベーションではなくて、リノベーションなんです。
伊賀:そうですね。
高岡:それほど、イノベーションは簡単なことではないということです。社長もイノベーターとリノベーターに分けて考えてみると、ほとんどがリノベーター。私が尊敬する小倉昌男(ヤマト運輸の宅急便事業創始者)さんのようなイノベーターは、ごく僅かです。
会社を大きくしたオーナー経営者が、なぜ簡単に引退できないかというと、自分の後を継ぐイノベーターなんて、簡単に育てられないし、見つけられないからです。
伊賀:創業経営者の方々は本当、簡単には引退できないですよね。体が続くまでトップとして牽引し続けるのは、もはや宿命的なのかもしれない。
高岡:そう宿命的。この話はフィリップ・コトラー氏ともしたんですが、「グローバルに見ても、イノベーターによる経営が2代続いた例は見当たらない」と言っていました。
伊賀:いったんは後継者を指名しながら引退できなかった柳井正社長や孫正義社長も、きっとそういう思いなんでしょうね。
高岡:それもあって、私はイノベーションアワードを始めました。ネスレ日本で次のイノベーターを育てたい。それは私の後継者ではなくて、2代後か、3代後かわかりませんが、私は見届けられないかもしれない。それでも、育てる準備だけはしておきたかった。経営学にも、経営者がいかに次のイノベーターを育てるかについて解き明かしていません。誰も理論化できていないのです。私はそれを自分でできればと思っています。これこそ、イノベーティブな挑戦ですね(笑)。
【著作紹介】
生産性―マッキンゼーが組織と人材に求め続けるもの
(伊賀泰代:著)
「成長するとは、生産性が上がること」元マッキンゼーの人材育成マネジャーが明かす生産性の上げ方。『採用基準』から4年。いま「働き方改革」で最も重視すべきものを問う。
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