自分たちを取材する企画会議
こうした結論を急がない会議は、チームを組んで実際に企画を検討する段階になっても同じようだ。
上記の物欲ミーティングで担当者の割り振りがなされた企画のミーティングでも、結論を急がない打ち合わせがされていた。企画者の2名に加え、あらかじめ声をかけていたデザイナー1名の3人で集まり、社内の一角のソファに座って、靴を脱いでくつろいだ様子で打ち合わせが始まる。
これは、ある「家具」を新商品として企画しようとするもので、最初に「どういう風に使ってる?」「どういうものが家にある?」と質問が投げかけられた。いわば、「生活をしている自分」にみずから取材をしているような状況だろうか。次々と、お互いの生活上のエピソードが出てくる。
「私はAのブランドのものを長く使っているよ」「あれは途中から素材が変わってよくなったよね」と身近にある製品の使用感から、「そういえば昔、丸いものは場所をとるから、もう買わないでくれって言われたんだ」とサイズや形状についての記憶、「私は仕事柄、自分で発注してつくってしまいました。材質はXで……」とデザイナーらしい意見もある。打ち合わせは、こうしてみずからの経験や記憶から、自分たちが欲しい商品のヒントを徐々に集め、核を探っていく過程のようだった。
こうしたやり方は、組織論の中では「人間中心主義設計(Human-centered design)」の一部として知られている。認知科学者のドン・ノーマンが1980年代後半に提案したもので、使用者の活動を観察してニーズや問題を洗い出しては新規商品の開発に生かしていく方法だ。
商品案を具体的に構想する以前に、まず関わり深い行動や類似品の使われ方をじっくりと観察し、そこから一番重要な訴求点を引き出すことを目指す。近年、イノベーションや新規商品開発の方法として言及されることの多い、デザイン思考や行動観察の源流である[注]。
しかし、「ほぼ日」の企画会議は1点、それとは異なる。調査したい対象や人を選定して組織の外部から連れてくるのではなく、自分で自分たちの生活を観察しなおすのだ。これは簡単なようで案外難しい。職場の自分という役割を一旦忘れ、普段は頭から追い出している生活にまみれた自分の実感を、ことこまかに思い出さなくてはいけない。場合によっては自分の生活を職場の人と語り合うことへの心理的ハードルもあるだろう。