●状況5:親しい相手にネガティブなフィードバック、あるいは気まずいフィードバックを与えなければならない

「トニーはチョコレート工場の購入担当者だ。ジェイは2年前からトニーの上司であり、また友人でもある。 ジェイは最近、他の多くの従業員からトニーに『口臭がする』と伝えてほしいと頼まれている。状況は多くの人にとって耐えられないものになっており、出入りの業者も当惑している」

言うべきフレーズ:「かつてある人が私のことを思って言ってくれたように、いまここで、君のためを思って言わせてもらうよ」

 傷つけやすいフィードバックを与えている時には、自分がどんなに味方だと伝えても、相手は徹底抗戦に走りがちだ。フィードバックを与える意味など、なかったのではないかと思えてくるほどだ。

なぜ効果があるのか:上記のフレーズを落ち着いた率直な口調で言えば、キャリアや人生を変える瞬間が残念な結果をもたらす最悪のイベントになってしまうのを、以下の理由で防ぐことができる。

・相手に心の準備をする時間を与える。
・あなたが受けた辛いフィードバックの状況を個人的な話として冒頭で伝えることで、批判に耳を傾ける価値を保証する。
・弱さを共有することで、即座に相手と一体化する。
・メッセージを非難として聞く状態から、励ましや気遣いとして聞く状態へと、相手の気持ちを変える。

「ジェイはトニーのデスクに近づき、トニーに手短にフィードバックしたいことがあると知らせた。『かつてある人が私のことを思って言ってくれたように、いまここで、トニー、君のためを思って言わせてもらうよ。君も気づいているかもしれないが、2人で話すとき、私は一歩引いているだろ。私も他のみんなも何度かの経験から、君の息がいつも最高の状態にあるとは限らないと知っている。単に脱水症のためとも考えられるが、歯医者か医者に相談したほうがいいことなのかもしれないな』。ジェイはトニーにブレスミント1パックを手渡した。トニーは少し気まずい思いをしたが、微笑んでジョイに礼を言った。ジェイはトニーの手を握り、自分のデスクに引き返した」

●状況6:間違っていると思う決定を、押し戻す必要がある

「メイ・リーは、某製薬会社で最重要のリサーチ・チームのリーダーとパートナーを兼務している。彼女のチームはほぼ全員が中国人、かつ大半が女性というグループ構成で、同社唯一の存在だ。オフィスを再設計している最中、あまり人気のない地下1階に、どのグループを移動させるかを決定するため、少数の最高経営幹部が指名される。メイ・リーからの情報を求めないまま、彼女のチームが地下に移動するグループとして選定される。彼女はないがしろにされたように感じる」

言うべきフレーズ:「これが私の希望です」

 時折、何か気になることがあってもそれを口にするのが不安だったり、葛藤を感じたりすることがある。時間をかけて分析し、あなたの見方の裏付けを取ることもできなくはないが、そうするとかえって問題を複雑にする可能性もある。

なぜ効果があるのか:上記のフレーズを使えば、会話を望ましい方向に変えることが可能になるのと同時に、他のアプローチを受け入れる寛容さも伝わる。

・あなたが気がかりなことと、あなたの希望を明白に伝える。
・挑戦的な物言いをするのではなく、論理的に説明する。
・論争を招きかねないトピックに取り組む意思があることを明示する。 
・あなたにとってその結果が、その後の進捗を追跡調査するに値するほど重要であることを、他の人たちに注意喚起する。

「メイ・リーは、上司のオフィスに顔を出した。彼女は移動を指図される以前に、移動委員会から意見を聞かれなかったので、自分の見解を伝えたい旨を説明し、そのことを委員会に伝えてほしいと頼んだ。『一部のチームが移動しなければならないことは理解していますが、なぜ私のチームが地下に移動するように選定されたのか、理由がはっきりしません。私は、チームがこの階に残ることを希望します。これが私の希望です』。彼女の上司はメモを取り、メイ・リーの見解を確認してから、チームを擁護する旨を彼女に知らせた」

●状況7:深刻な問題について、一階層上の上司に報告する必要がある。

「エヴァはシリコンバレーで働くエンジニアだ。業界イベントでニューヨークに滞在中、宿泊先のホテルに戻ると、ロビーに上司がいる。彼はエヴァに、『君に強く心を惹かれているあまりに、一緒に過ごしたくて、飛行機に乗ってここまで追いかけてきた』と言い寄る。エヴァはこの件を人事部のエイブに報告する。彼は、エヴァの上司が会社でトップの業績を上げている1人であり、長年問題なくやってきたのだから、おそらく彼が言ったことをエヴァが誤解したのだろうと、エヴァに告げた」

言うべきフレーズ:「あなたの対応により、この件をさらに追及する理由ができました」

 セクハラのような深刻な問題に関しては、各マネジャーと人事部の間で苦情の処理方法に一貫性がまだ確立していない。このため、不当な扱いをふたたび受けるのではないか、昇進のチャンスを失うのではないか、そして、職を失うことさえあるのではないかとの不安や悩みを抱えたままになるおそれがある。

なぜ効果があるのか:落ち着いた率直な口調で、上記の深刻な表明をすれば、あなたが不祥事に加担するつもりも、服従するつもりもないこと、そして、さらなる措置を講じる方法を見つけ出すつもりであることを、問題の人物とマネジャーに通知する効果がある。

・相手側が問題の状況をみずから扱うことを選ぶにせよ、あるいは、同じ状況を後日再発させて他の誰かから糾弾されることを選ぶにせよ、問題がなくならないことを明確にする。
・問題の追及計画について透明性を確保する。
・あなたは問題の人物が不品行の報いを受けるように期待していること、そして問題行為を報告した結果に自分は苦しむつもりはないことを、明示する。
・後にあなたの士気を挫くよりも、むしろ、いまこの時にあなたをエンパワーする。

「エイブの対応によって、エヴァが思いとどまることはなかった。彼女は彼の言葉を一言一句ノートに書き留めて、『事実をあなたに伝えました。あなたの対応により、この件をさらに追及する理由ができました』と言った。エイブは眉を上げ、『上司を相手に闘う価値がある件だと、本気で考えているのですか』と尋ねた。エヴァはふたたびエイブの言葉を一言一句ノートに書き留めた。『ええ、本気です』と応じてから、『あなたの対応により、この件をさらに追及する理由ができました』と繰り返した。彼女はエイブに礼を言い、オフィスを出て、会社の別の経営幹部にメールを送り、是正を求める意思を伝えた」


HBR.ORG原文 7 Tricky Work Situations, and How to Respond to Them, October 11, 2017.

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アリシア・バサック(Alicia Bassuk)
リーダーシップ開発会社Ubicaの創設者。リーダーシップのデザイナー、コーチとして国際的に活躍し講演、執筆活動も行う。プロ選手、経営幹部、次期社長、起業家など、さまざまなタイプのリーダーをクライアントとする。リーダーシップに関する著書When No One is Looking Take the Leadを執筆中で、マグローヒルから2019年に出版予定。ツイッター(@aliciabassuk)でも発信している。