自己理解を深める思索はどのように関係しているか

 我々が次に解明したかった疑問は、外国暮らしがなぜ自己概念の明瞭さを向上させるか、だった。

 前述の研究から、自己理解を深める思索、すなわち自分の中のどの要素がアイデンティティを確立していて、どの要素が単に自分の育った文化的背景を反映しているだけなのかを深く考えることが、外国暮らしと自己概念の明瞭さを関係づける決定的な因子であるとの証拠が得られた。

 このような思索を測定するにあたり、我々は新しい基準を策定した。そこから得られたデータから、外国暮らしの経験がある人は、経験がまったくない人よりも、この種の思索をすることが明らかになった。

 それでは、自己理解を深める思索はなぜ、外国で暮らしている期間に起きる傾向が強いのか。

 自国で暮らしていると、周囲の人々がたいてい自分と同じように振る舞うため、自分自身の言動が、自分の核となる価値観を反映しているのか、それとも所属する文化の価値観を反映しているのかを自問する必要に迫られることはない。対照的に、我々のデータによれば、外国で暮らしているときは、新鮮な文化的価値観と規範に触れることが刺激になって、自分自身の価値観と信念に繰り返し向き合うことになり、その結果、この価値観や信念が捨て去られたり、逆に強化されたりする。

 3番目の研究では、外国暮らしと明瞭な自己意識の因果関係を示す証拠が得られるよう、実験を設計した。

 外国で暮らした経験のある116人をオンラインで集め、2つの実験条件のどちらかに無作為に割り当てた。一方の条件では、外国暮らしの経験を回顧するように参加者に依頼した。他方の条件では、自国暮らしの経験を回顧するように依頼した。この方法により、外国暮らし対自国暮らしの認知機能を確実かつ効果的にシミュレーションすることが可能になる

 その結果、外国暮らしの経験を振り返った参加者は、自国暮らしの経験を振り返った参加者よりも、明瞭な自己概念を示した。加えて、前回の研究にも類似して、この違いが生じた原因は、外国暮らしについて振り返った参加者が、自己理解を深める思索を一層強く思い起こしたからだった。

外国暮らしの経験で重要なのは「深さ」であって、「幅」ではない

 続く研究では、平均ほぼ3年間の外国暮らしを経験したことのあるMBAコースの学生をサンプルに選んだ。このサンプル集団を分析することで、外国暮らしと自己概念の明瞭さの、より微妙な関係を探求することが可能になった。

 我々はとりわけ、自己概念の明瞭さを向上させたのが、国際的な経験の深さ(外国で暮らした累計期間)だったのか、それとも国際的な経験の幅(暮らした国の数)だったのかを分析することに関心を持っていた。

 我々は、幅よりも深さのほうが重要であると予想した。なぜなら外国で長く暮らすほど、自己理解を深める思索の機会も多くなるからだ。対照的に、国際的な経験の場が1つの国だったか、複数国だったかは、それほど重要でないと考えた。

 MBAコースの学生559人を対象とした4番目の研究結果から、我々の予想通りであることが確認され、外国暮らしの深さが(幅ではない)、自己意識の明瞭化を予見することが判明した。