フィードバックとは、部下に「あなたは変わらなければならない」と伝えることだ。しかし、部下の話に耳を傾けて問いかければ、彼ら自身に「変わりたい」と思わせることができるかもしれない。最近の論文で我々は、質の高い傾聴――注意深く、共感しながら、判断をせずに聞くことが、話し手の感情と態度を前向きにさせる、ということを一貫して実証している。
たとえば、我々はある室内実験で、112人の学部生を話し手と聞き手に振り分け、2人1組に向かい合って座らせた。話し手には、「最低所得保障(ベーシックインカム)案」あるいは「全大学生に対するボランティア活動の義務化」に関する意見を10分間語ってもらう。聞き手には、「自分が最高の状態にあるつもりで話を聞く」ように指示。そのうえで、聞き手の半数には携帯電話にテキストメッセージを無作為に送り、わざと気を散らし(「最近一番イライラした出来事は?」など)、簡単に返信するよう指示した(そうすることで、聞き手の注意が逸れていることが話し手に伝わる)。
上記のセッション後、話し手に次の質問をした。自分が相手にどう思われているかが心配だったか。話している間に、何か洞察を得られたか。自分が語った意見に自信があるか。
その結果、優れた聞き手(気を散らされなかった聞き手)と組んだ話し手は、より不安感が低く、自己認識力が高く、与えられたテーマに対して明確な態度を示すことがわかった。また、気の散った聞き手と組んだ話し手に比べて、自分の考えを相手と共有したいと答える傾向が強かった。
質の高い傾聴のもう1つのメリットは、話し手に議論の二面性(我々はこれを「考え方の幅」と呼んでいる)に気づいてもらう一助になることだ。我々は別の論文で、次の研究結果を報告している。優れた聞き手と対話した話し手は、より幅広い、かつ極端ではない考え方を示した。つまり、偏っていないということだ。
別の室内実験で、ビジネススクールの学部生114人に、将来のマネジャーとしての適性について12分間話してもらった。まず、彼らを無作為に3つの聞き手グループ(良い、普通、悪い)と組み合わせる。「良い聞き手」のグループは聞く訓練を受けた人たちで、マネジメントコーチの有資格者か、またはソーシャルワーカーとしての訓練を受けた学生だ。我々は彼らに、問いかけやリフレクティング(相手の言葉を繰り返す)など、傾聴のあらゆる技術を駆使するようにお願いした。
「普通の聞き手」のグループは、普段通りに話を聞くよう指示されたビジネススクールの学部生である。「悪い聞き手」のグループは、気が散っているふりをするように指示された、演劇学部の学生だ(よそ見をする、スマートフォンをいじっている、など)。
3種類の聞き手のいずれかと会話した話し手に、その後、自分のマネジャーとしての適性はどのくらいかを示してもらった。その回答に基づき、彼らの考え方の幅(自身のマネジャーとしての能力に影響を及ぼしうる、強みと弱みの両方を認識しているかどうか)と、偏り(どちらか一面だけをとらえていないか)を分析した。
すると、よい聞き手と対話した話し手は、他の条件の話し手よりも、強みと弱みの両面を自覚していることがわかった。気が散っている聞き手と会話した人は、主に自分の強みについて語った一方で、弱みをほとんど認識していなかった。興味深いことに、悪い聞き手と会話した話し手は、自分はマネジャー職に適任だと回答する傾向が、平均して最も高かった。
我々はこうした室内実験の結果の妥当性を、3つのフィールド実験で検証した。対象は市役所の職員、ハイテク企業の社員、教師(合計180人)である。参加者には、同僚や上司について、あるいは職場での有意義な経験について話してもらった。ただし、その前と後に、「リスニングサークル」への参加を求めた。
リスニングサークルでは、参加者は職場での有意義な経験などの話題について、心を開いて正直に話すように促される。そして、聞くときには口を挟まずに耳を傾けるよう訓練を受け、1度に話すのは1人だけにするよう教えられる。
この結果、室内実験での発見がすべて再現された。すなわち、リスニングサークルに参加した人々は、対照群としてサークルに参加しなかった(聞く訓練を受けなかった)グループに比べ、さまざまな仕事上の話題(マネジャーに対する態度など)について社会関係上の不安が低く、考え方の幅が広く、偏りが少なかったのだ。
これらが示唆するのは、従業員は話を聞いてもらうことで、いっそうリラックスし、自身の強みと弱みを認識し、防御的にならずに内省するということだ。これにより、他の従業員に(対立的ではなく)より協力的な態度になる。自分の考え方を他者と共有したいという思いを強めつつ、他者を説き伏せようとはせず、異なる意見にもよりオープンであろうとするからだ。
業績評価に話を戻そう。
もちろん我々は、フィードバックをやめて、ただ傾聴すべきだと主張しているわけではない。それより、まずは自身の体験を語る部下の言葉に耳を傾ければ、彼らは心理的に安全だと感じて身構えなくなり、フィードバックがもっと生産的になるようだ。