傾聴を阻む要因

 話をよく聞くマネジャーは、(タスク志向ではなく)人間志向のリーダーと見なされ、より高度の信頼を醸成し、従業員の職務満足度とチームの創造性を高める。これらについては既存の証拠があり、我々の研究結果はこれを裏付けるものだ。

 しかし、傾聴がそれほど従業員と組織のためになるのであれば、なぜ職場でもっと普及しないのだろうか。ほとんどの従業員はなぜ、望みどおりの形で話を聞いてもらえないのだろうか。

 研究によって、傾聴をしばしば妨げるいくつかの要因が明らかになっている。

 1. 権力喪失への恐れ

 筆者らの研究によれば、一部のマネジャーは、部下の話に耳を傾ければ、自分たちが見くびられるのではないかと感じる場合がある。一方、優れた聞き手になれば、敬意を得られることが明らかになっている。したがってマネジャーは、威嚇によるステータスの維持と、尊敬によるステータスの獲得との狭間で、折り合いをつけなければならないようだ。

 2. 傾聴は時間と努力を要する

 多くの場合、マネジャーが部下の話を聞く際には、時間的制約に追われているか、あるいは他の考えごとや仕事に気を取られている。つまり、傾聴することは投資的判断なのだ。マネジャーは将来のメリットを得るために、話しを聞くだけの時間を割かなければならない。

 3. 変化への恐れ

 質の高い傾聴は、判断を下さずに話し手の考え方を受け入れる必要があるため、リスクを伴う。この過程で、聞き手の態度や考え方が変わるかもしれないからだ。我々はマネジャーに傾聴の訓練を施すなかで、彼らが部下について重要な洞察を得る場面を何度も目撃した。長年一緒に働いてきた従業員の人生をほとんど知らなかったことに、マネジャーたちは気づき、愕然とするのだ。

 たとえば複数のマネジャーは、欠勤が問題になっていた部下の話を聞いたところ、家族(末期がんの妻や精神障害のある兄弟など)のサポートで苦労していたことを知った。この気づきは、マネジャー自身の姿勢や物の見方を脅かす。これは認知的不協和と呼ばれる、時に不快にもなる体験を引き起こす場合があるのだ。

優れた聞き手になるためのヒント

 傾聴することは、筋肉を鍛えることと似ている。訓練、忍耐、努力、それに最も重要なこととして、優れた聞き手になろうとする強い意志が必要だ。内外の雑念を頭から追い出さなければならない。それができなければ、気を散らさずに真剣に話を聞けるようになるまで、会話を先延ばしすべきだ。

 下記に最善の方法をいくつか挙げよう。

 ●100%の注意を払うか、話を聞くのをやめるか、どちらかにする

 スマートフォン、iPad、ノートパソコンをしまい、話し手を見よう。相手が自分を見ていなくても、である。通常の会話では、話し手は時おり聞き手を見て、相手が聞いているかどうかを確かめる。頻繁にアイコンタクトをすることで、話し手は自分が傾聴されていると実感できるのだ。

 ●話を遮らない

 話し手がひと通り話を終えたと意思表示するまで、口を挟みたい気持ちを抑えよう。我々のワークショップでは、マネジャーに次のような指示を与えている。「職場で、話を聞くのが非常に難しいと思われる相手を選びましょう。そして彼らに伝えるのです。自分は傾聴について、学び練習している最中であること。だから今日は、数分間(3分、5分、あるいは10分でもいいから)ただ話を聞きたい。その時間が終了するまで、または翌日まで、返事をしない、と」

 マネジャーはしばしば、この試みによる新しい発見に驚く。ある人は、「通常なら1時間以上かかるであろうやり取りが、わずか6分間で終わった」と述べた。また、別のマネジャーは「ある女性は、私に18年間も言えずにいたことを打ち明けてくれた」と語った。

 ●判断や評価を下さない

 結論を急いだり、聞いた内容を解釈したりせずに、ただ話を聞こう。判断を下したくなるかもしれないが、その考えを脇に押しやるのだ。自分が脳裏で判断を下していたせいで会話の道筋を見失ったら、気が散っていたことを相手に詫び、もう1度言ってほしいと頼もう。聞いているふりをしてはいけない。

 ●自分の解決策を押しつけない

 聞き手の役割は、話し手が自身で解決策を編み出せるように手助けすることだ。したがって、同僚や部下の話を聞くときは、解決策を示すのを慎もう。自分がよい解決策を持っていて、それを共有したい衝動に駆られたら、こんなふうに問いかけよう。「たとえば、〇〇を選んでみたら、どうなると思う?」

 ●より多くの質問、よりよい質問をする

 聞き手は、話し手のためになる質問をすることで、会話の流れを導くことができる。上手に話を聞くには、話し手が最も助力を必要としていることは何かを考慮し、彼らがその答えを見出せるような問いを投げかける必要がある。話し手自身に、考えや経験を深く掘り下げてもらうような質問をしよう。

 質問する前に、次のように自問してほしい。「この問いかけは、話し手のためになるものだろうか、それとも、自分の好奇心を満たすためのものだろうか」と。もちろん両方があってもよいが、優れた聞き手は相手のニーズを優先する。最良の質問の1つは、「他に何かありますか」だ。この質問がしばしば、新たな情報と予想外の機会を引き出す。

 ●振り返りをする

 会話を終えたら、自分の聞き方を振り返ろう。逃した好機――手がかりになりえた言葉を無視してしまったことや、質問せずに黙ってしまったことなど――について考えるのだ。素晴らしい聞き手になれたと感じたときには、何を得たのか、その聞き方をもっと困難な状況にどう応用できるかを考えるとよい。


HBR.ORG原文:The Power of Listening in Helping People Change, May 17, 2018.

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ガイ・イツチャコフ(Guy Itzchakov)
イスラエルにあるオノ・アカデミック・カレッジの経営管理学部講師。エルサレム・ヘブライ大学で2017年に博士号を取得。カール・ロジャーズの理論を基に、注意深く中立的な傾聴によって、話し手の感情と認知の機会を広げる方法について研究している。『パーソナリティ・アンド・ソーシャル・サイコロジー・ブルティン』『ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・ワーク・アンド・オーガニゼイショナル・サイコロジー』『ジャーナル・オブ・エクスペリメンタル・ソーシャル・サイコロジー』に論文を寄稿。連絡先:guy.it@ono.ac.il

アブラハム N. クルーガー(Avraham N. (Avi) Kluger)
エルサレム・ヘブライ大学ビジネススクールの組織行動学教授。20年以上にわたり、業績評価のフィードバックがおよぼす悪影響について研究を重ねている。傾聴に関して継続中のメタアナリシスでは、優れた聞き手はパフォーマンスが高く、優秀なリーダーと見なされることを明らかにしている。研究の詳細はこちら