ジョン・スチュアートが米人気テレビ番組「ザ・デイリー・ショー」で司会役に起用する新人はコメディアンとして大成したし、アリス・ウォーターズが起用する新人シェフは必ず人気シェフに育った。才能を発掘し、育て、開発することで、スーパーボスはコミックのスーパーヒーロー並みの絶大なインパクトを持つのである。

 逸材にはいつも忙しくさせていろというのは、筆者がリーから学んだ教訓の1つだ。同じくらい重要な2つ目の教訓は、「アーティストには規制をかけるな」である。

 リーは、作品に関するクリエイティブな表現は、アーティスト本人に一任することを好んだ。彼自身、オチの部分でホッピング(スポーツ玩具のポゴスティック)という言葉が出てくるコミック・ストリップに取り組んでいたときのことを、よく覚えていた。

 編集長は、ホッピングが地方の読者にはなじみが薄いと考え、代わりにオチで「ローラースケート」を使うよう、ジョークの修正を指示した。ジョークの効果は薄まるが、リーは指示に従った。結局、その作品はボツとなり、そのときリーはこう言った。「私に言わせれば、あのような検閲をするのは品格が疑われるね」。アーティストを雇って仕事をさせるなら、本人にすべてを任せるべきだというのである。

 リーはこう説明する。「誰かが創造性を発揮して何かに取り組んでいて、それしかないと確信しているのなら、あれこれ口をはさまず、本人の思う通りにやらせるべきだ。私はそう思う」

 数年後、リーはみずからの信念を実践する。自身が生み出したマーベルコミックのヒーローであるハルクが、人気テレビ番組になるときのことだ。

 クリエイティブなチームが、テレビという新しい媒体に適するよう、ハルクを変えていくプロセスを目の当たりにして、リーは感銘を受けた。そして、口出しをしなかったのは正解だったと語った。

「私は、ハルクをどうすればテレビに最適な方法で登場させられるか、何度も話し合うなかで、ケン・ジョンソンからテレビについて、とても多くのことを学びました。ケンの監督のもとで番組があれほどの成功を収めたことは、クリエイティブなプロジェクトを、真にクリエイティブな人材に委ねることがいかに重要かを証明しています」

 リーはボスとして、あまり干渉しないというスタンスを楽しみ、その姿勢は、昔風の上司なら未熟すぎると表現したくなるような若いスタッフに対しても、変わることはなかった。

 筆者がリーから学んだ3つ目の教訓は、「貢献した人の功績を認める」ということである。しごく当然に聞こえるが、なかなか実践できないことである。

 貢献者の功績を認めるためにリーが用いた方法の1つが、「クレジットページ」の作成である。これは、完成した作品に、コミック制作に関与したアーティストの情報が載ったページを添えるもので、独特の明るい語調で書かれている。こうしたクレジットページは、リーが始めるまでコミック界にはなかった習慣だった。それまで、コミックの下描きや墨入れを担当するアーティストの名前が公表されることはなかったのである。

 スタンの書くクレジットページは、こんな感じだ。「情熱を持ってストーリーを書いたスタン・リー。誇りを持って絵を描いたジャック・カービー。熟練の技で墨入れをしたジョー・シノット。カリカリペンで吹き出しの文字を書いたアーティー・シメック」

 リーはまた、月1回のニュースレター「The Bullpen Bulletin」の中で、コミック制作に携わるアーティストを頻繁に取り上げた。こうして引き合いに出すことは、時として、彼の下で働く人々のキャリアを変え、新たなキャリア形成をもたらした。

 たとえばリーは、アーティストのジャック・カービーのキャリア半ばに、「キング・オブ・コミックス」という称号を彼に与え、「アーティストのためのアーティスト」と呼んだ。今日に至るまで、カービーはキング・オブ・コミックス、または「キングカービー」と呼ばれている。

 この種の宣伝は、アーティストたちにとってプラスに働いただけでなく、若い世代の読者たちが、お気に入りのアーティストをいっそう熱心にフォローすることを可能にした。また、マーベル・アーティストというブランドを生み出し、その作品への読者の親近感をより深め、アーティストたちのキャリアを促進し、リーの情熱の1つである、コミック業界でのプロフェッショナリズム向上を実現する力を、リーに与えてくれたのだ。

最後に、スタン・リーは、大きな夢を持つことがいかに重要であるかを思い起こさせてくれる。大きな夢を抱くことほど、才能ある人のやる気を奮い立たせるものはない。

「私たちは、コミックというメディアの格上げに向けて努力しています」と、リーは語ったことがある。「コミックを尊敬すべきものにしたのです」

 リーは、コミックには重要な社会批評の力があり、鋭く、皮肉で、知的であると感じていた。知性溢れる大人がコミックブックを手に堂々と街を歩く日が来ると信じてやまず、そのゴールの実現に向けて突き進んだ。

 リーは、コミックを高等教育の場で教えるべきだと説いた。「映画やテレビ、オペラ、コンサート、彫刻、絵画、その他の芸術を大学生が勉強するのなら、コミックもその1つになって然るべきでしょう。なぜならコミックは、人間の思考を形づくり、動かし、確固たるものにする要素として、それらのものに勝るとも劣らない力があるのですから」

 彼に言わせれば、コミックはれっきとしたアートとして見られるべきものだ。そうした姿勢が、彼のもとで働きたいと、多くの才能豊かなアーティストを引きつけたのである。

 もちろん、リーはけっして完璧ではなかった。完璧な人間などいない。しかし彼は、コミックをリポジショニングして活性化し、コミック業界にプロフェッショナリズムの息吹を吹き込み、多数の有能かつ若き愛弟子のアーティストたちが飛躍する土壌をつくった。どんなボスが見ても、スーパーとしか呼びようのないレガシーである。


HBR.ORG原文:What Stan Lee Knew About Managing Creative People, November 13, 2018.

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シドニー・フィンケルシュタイン(Sydney Finkelstein)
ダートマス大学タックスクール・オブ・ビジネス教授(戦略とリーダーシップ)。作家。著書に『SUPER BOSS』がある。