植野 また、専門性の高いデジタル変革人材のマネジメントにおいては、要員管理や配置マネジメントのやり方も変えていく必要があります。具体的には、これまでのような「玉突き人事」や「"量"の観点だけを捉えた要員管理」が機能しなくなる、ということです。極端な例えではありますが、デジタルサービスのデザイナーのポジションが空席になったからといって、そこにデータサイエンティストを玉突きで送り込むことはしないでしょう。こうした人材の"質"の違いを踏まえつつ、迅速な獲得・配置を実現すべく、HR Techや人材データ活用も含めて人材マネジメントのやり方を抜本的に変えていく必要があります。これは、ゼネラリスト獲得・育成を得意としてきた多くの企業にとって、大きなチャレンジとなるでしょう。
また、こうしたことは、従来の人事部管轄の人事制度の話ではなく、「デジタル変革人材のスキルをいかに業績貢献につなげるか」「既存事業から新規事業へ、もしくはその逆の人材シフトをいかに実現するか」という、人材を軸にデジタル変革を実現する仕組みとしての人材マネジメントの議論であり、経営アジェンダであることを忘れてはなりません。
デジタル変革人材の獲得・育成は
CEOアジェンダと位置付けよ
――最後に、改めてデジタル変革のカギを握るデジタル人材マネジメントの要点を教えてください。
植野 1点目として、デジタル変革の出発点であるエッジ組織において必要なデジタル変革人材(主にイノベーション創出人材)は、人材市場でも極めて希少な存在であり、熾烈な人材争奪戦が繰り広げられているという認識をもつべきです。したがって、獲得するにしても育成するにしても大きな投資をするコミットメントが必要です。このデジタル人材獲得・育成は、人事部に閉じた仕事であるという認識を捨て、CEOアジェンダに据えて実現にコミットすることが不可欠です。
2点目として、エッジ組織は、デジタル変革人材の獲得・育成ビークルと位置付け、エッジ組織の立ち上げ・運営にも、思い切った投資をすべきです。前述のように、短期的には収益のあがらないエッジ組織ではありますが、イノベーション創出人材を惹きつけ、チェンジエージェントを育成していく全社改革を牽引するビークルとして、短期的業績貢献とは別の視点で投資をしていく必要があります。
3点目として、前述の内容の繰り返しにはなりますが、このビークルにて獲得・育成した人材がもたらす長期的な業績貢献を最大化する鍵は、エッジ組織とコア組織間の人材交流の加速にあります。ビークルであるエッジ組織立ち上げ時にコア組織の人材を配置する、エッジ組織で尖らせたケイパビリティをコア組織に伝播していく、といったフェーズで、いかに機動的に人材を動かせるか。人材を獲得するのみならず、このアジャイルな人材配置転換を可能とする、テクノロジーも活用した人材マネジメントを早急に整えることが求められるでしょう。

(取材・文/河合起季 撮影/有光浩治)