●経験だけでなく、能力を明らかにする質問
質問の目的は、候補者の「能力」を知ることなのか、それとも、すでに調査済みの候補者の経歴内容を確認することなのか。
数年前、ソーシャルメディアの「専門家」に関する職務記述書を評価してほしいと同僚に頼まれたことがある。ツイッターが普及して1年くらいの頃だったが、内容を見て、私は思わず笑い出してしまった。1行目に「要経験10年」と書いてあったのだ。
既存の職務における基準を、通用しないのに用いてしまうのはよくあることだ。経験年数を尋ねるメリットは、雇用主にとって必要な仕事をやってきた人材を採用できることだが、デメリットも伴う。これまで奏功してきたやり方を踏襲すると、次なる新しい何かを創造する余地が制限されてしまうリスクがあるのだ。
「XやYやZをやったことがありますか」と聞くのではなく、「XやYやZを行うのに、あなたならどんなやり方をしますか」と聞くべきだ。質問をこのように変えると、候補者には「他者とともに考える能力」があるかを知ることができる。
残念なことに、現在のあらゆる仕事の推定77%(米国では60%、世界では80%)は、創造性、意思決定、独自の判断をほとんど、もしくはいっさい必要としない。しかし、イノベーションを起こそうと取り組んでいるなら、「ともに考える」ことのできる人材が必要だ。そして経験よりも能力に注目すれば、そのような人材を見つける可能性が高まる。
●チームで協創できるかどうかを評価する質問
私が過去10年の間に支援してきたチームに、なぜ以前の大きな戦略計画が失敗したと思うかを尋ねても、「チームがうまく協力できなかったから」という答えが返ってくることはめったにない。ただし、チームに穴――つまり担当者のいない職務があり、それを埋めようとする人がいなかった、という回答はある。
世界は急激に変化しており、仕事の変化も速いため、チームはあらかじめ決められた役割のままでい続けるわけにはいかない。新たなチームの形を協力して、見出す必要がある。
そこで、候補者にこんな質問をしてみよう。「チームに穴があるのが明らかになったとき、どうやってその状況に対処しますか」。一般的に面接を受ける者は、自分の功績として認められるように「私」を使うように奨励されているが、仕事の達成に対するより現実的な表現は「私たち」だろう。
さらに、その状況についてどう感じたのかも質問しよう。穴埋めできたことを誇りに思ったのか。そもそも、穴があったことを心配したのか。そうすれば、話している相手がチームプレーヤーなのか、知ったかぶりをする人なのかを知ることができる。望ましい人材は、仕事の達成に向け、既存の役割では対処されない穴を埋めながら、他者と協働できる人材だ。
●候補者はどんな仕事に情熱を抱くのかを明らかにする質問
イノベーションのために人材を採用するなら、本来の自分(その人の本質的な部分)が仕事にどう貢献するのかを聞く必要がある。
結局のところ、アイデアは真空状態では生まれないし、育たない。それまでバラバラだった要素がつながることで、アイデアは育ち進化する。個々人は何に心から関心を持っているのか――それを突き止めれば、個々のやり方は違うが同じ目標を目指す人たちを、まとめることができる。そのつながりがイノベーションを起こすのだ。
しかし、人々が団結し注力する共通目標は、彼らにとって意義のあるものでなくてはならない。候補者に次のように尋ねよう。「そのプロジェクトの何が意義深いと思いましたか。その成功は、あなたが大事にしている物事に対して、どんな意味がありますか」
人々は、みずからが志す目標に見合った会社で働きたいのだ。その目標と仕事を整合させるのが、リーダーの仕事である。そうすれば一見バラバラな個々人が、団結して「我々」となり、同じ方向に進むことができる。
協創的な問題解決ができる人材を、どう選ぶのか。その方法を理解していないリーダーが、最適な候補者を振り落としてしまうことが多すぎる。忘れられがちだが、リーダーの仕事はあらゆる答えを知ることではない。チーム全体での学習とイノベーションを可能にする環境をつくることなのだ。
部長は結局、アナンドを採用し、力を合わせて掲げた目標を達成した。
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ニロファー・マーチャント(Nilofer Merchant)
スタンフォード大学講師。これまでに100を超える製品を立ち上げ、その総売上げは180億ドルを超す。公的機関および民間企業の役員を務めてきた。現在は、スタンフォード大学で教壇に立つほか、世界中で講演をしている。経営思想のサイトThinkers50が選ぶ、世界で最も影響力のある思想家の一人でもある。最近刊はThe Power of Onlyness(未訳)。