二段ロケット型とストラグル型を
隔てる要因は「相似形を見つける力」

 二段ロケット型とストラグル型を隔てる要因は、留職プログラム中の環境とプログラム後の自分の環境の中に相似形を見出せるかどうかである。

 前回ご紹介したCさんの事例(二段ロケット型)では、留職中にインドネシアで経験したコミュニケーションの課題と、米国の赴任先で経験したコミュニケーションの課題の種類・形質は大きく異なっていた。

 しかしCさんは、自分から内面をさらけ出し、相手の思いや志を引き出すことの大切さは、国や文化が変わっても同じ筈だと考えることができた。その結果、留職プログラム中に起こした「自分事化」の成功体験を新しい環境で適用させることができた。

 一方、Dさんの事例(ストラグル型)では、帰国後アサインされた人員整理中の部署で、その環境と留職プログラム中の環境に共通点・相似形を見つけることができなかった。そして、留職中は多様なチャレンジに踏み切る成功体験を得たにもかかわらず、「なぜ今はこんな風にしか働けていないのだろう」というネガティブな感情がつのり、次第に負の循環に陥っていってしまったのだ。

 実は、Dさんには後日談がある。

 ある日Dさんは、自部署の製品が、難病に罹っている子供たち向けの医療施設で使われていることを知り、その施設を視察に行った。その製品が難病の子供たちの生命を担う重要な使命を担っている様子を目の当たりにしたDさんは、「留職でやっていたことと、今、仕事で取り組んでいることは、本質的には同じことかもしれない」と気づいたという。

 この視察の後、Dさんは仕事へのモチベーションを取り戻し、現在は新たな挑戦を始めている。Dさんにとって病院視察は、留職プログラム中とプログラム後の自分の環境との相似形に気づくきっかけとなったのだ。

 このように「相似形を見つける力」は、プログラム中に自分事化を起こした人が大企業で「自分事化」を再現する上で非常に重要である。

 ただし、成熟度や年次、これまでの経験等による個人差が大きいため、自力で相似形が見つけられない場合には、上司や同僚によるアドバイスや、相似形のヒントを見つけやすい機会をアサインする等のサポートが必要だ。

 晩成型と未発型を隔てるのは「葛藤に負けた悔しさ」

 晩成型と未発型を隔てる要因は、留職中に葛藤に負けた悔しさを認識し、それに向き合い続けているかどうか、である。

 前回ご紹介したEさんの事例(晩成型)では、プログラムの終盤に、留職先の代表から、「君は本当に本気で仕事をしているのか?」と問いかけられたことが、Eさんにとって大きなショックとして記憶に残った。

 この時の悔しさを忘れなかったことが、所属企業に戻ってからの挑戦の原動力に変わった。その結果、留職プログラム中には発現しなかった成長が、プログラム後に花開いたのである。

 一方、Fさんの事例(未発型)では、取り組むべき課題から自分で定義することに挑戦しなかったことに本人が納得しており、悔しさの残る経験にならなかった。

 実はFさんにも後日談がある。

 Fさんの後、自身と同等のスキル・経験レベルの人が、同じ留職先に派遣された。その人は、取り組むべき課題を自分で定義することに勇気を出して挑み、Fさんより大きな成果を挙げて帰国した。この話を聞いた時、Fさんに初めて「実は自分ももっとやれたのではないか」という悔しさに似た思いが湧きあがってきたという。

「葛藤に負けた悔しさ」を認識して向き合う力は、留職中に「自分事化」が起きなかった人が、大企業で「自分事化」を起こすために重要な力である一方で、悔しさの感じ方、認識の仕方は人それぞれであり、個人差が大きい。

 自分で悔しさを認識し続けることが難しい場合には、プログラムの気づき・学びを振り返る機会の定期的な設定や、自身が挑めなかったスケールのチャレンジをしている人の事例を伝える等のサポートが必要だ。