3.これまでのスマートシティとの違い
以上までのスマートシティの変化を踏まえると、スマートシティという取り組みの位置づけが大きく変化してきていると考える。スマートシティに取り組む都市が増加するにつれ、当初の環境問題を軸としたスマートシティは相対的に減少し、都市が抱える非常に多様な課題に対応する形で、各スマートシティが掲げる目的・テーマも多様化してきている。
環境問題以外のテーマは、大きく市民のQoL向上を目的としたサービス・ソリューション導入重視型と、産業創出・育成を目的とした実証重視型に分かれる。前述のトロントや会津若松の事例も実証重視型であり、民間企業がスマートシティに主体的に取り組む場合において、注目が集まっているのも実証重視型のモデルとなる。
また、デジタルサービスの増加に伴い、消費者のデータ提供に対する感度が大きく変化し、かつ急速にプライベート空間のデータ化が進展している。これは、スマートシティの文脈においては、公共エリアデータだけではなく、Sidewalk Torontoの事例のように、プライベート空間での最細粒度でのデータに基づく最適化を目指すこと方向に進化することを意味する。
さらに、スマートシティがQoL向上や実証を重視するようになり、市民・住民のカスタマーエクスペリエンスを常に最新化し、かつ自律的にサービスが進化し続けることが求められるようになってきた。その実現には市民・住民の深い理解だけではなく、スタートアップコミュニティをはじめ、デジタルを活用したまちづくりに主体的に関わる生活者の人口を増やすことが重要となる。そのため、スマートシティの主体事業者は、単なる技術導入だけではなく、これまで市民団体や行政が担ってきたコミュニティデザインの領域まで踏み込むことが必要となってきている。
ビジネス上の位置づけ
前述までのスマートシティの変化を踏まえて、スマートシティ事業に企業はどのように取り組むべきであろうか。一番重要なのは、デジタル変革が進む事業環境において、自社にとってのスマートシティ事業における事業価値定義を明確にすることである。
デジタル変革の進展による事業環境の大きな変化を、(1)サービス化・サブスクリプション化の浸透による継続的な顧客価値向上の必要性向上、(2)コンバージェンスの進展によるパートナシップ・エコシステムの重要性向上、(3)連続的・高回転でのPoC(実証実験)を前提としたサービス開発への移行、の3点ととらえたときに、スマートシティ事業の事業価値は下記のように整理される。(図3)
