1.不動産・インフラ事業における継続的タッチポイントを通じた価値創出
スマートシティを含む都市開発における事業価値は、不動産とインフラ事業に集中する。開発時におけるこれらの価値創出は、今後も存在するが、スマートシティによる継続的サービス進化を前提にした住民とのタッチポイント創出は、新たな価値を創出すると考えられる。
2.サービス・データビジネスによる価値創出
スマートシティに係るデジタルサービスは、生活を少し便利にするものの、抜本的な生活体験を変え、支出の構成を変えるまでに至っていないがゆえに、残念ながら今断面において多くは収益化できていない。しかし、今後、シェアリングエコノミーの進展や生活全体のデジタル化の進展によって、これまでデジタルの世界で起きてきたマネタイズモデルの変化がリアルでも発生し、次々に収益化に成功する企業が現れると考える。
3.パートナーエコシステムとのPoCを通じた新規事業創出による価値創出
今後のスマートシティは市民・住民までもが能動的に新たなソリューションの創出に協力し、リアルフィールドでの様々な実証が可能な場となる。さらに行政による規制緩和を通じた支援や、研究機関との高い連携密度により、実証地を求める企業が集まり、エコシステムが構築される。このリアル実証フィールドを中心としたエコシステムを主体的にマネジメントすることで、自社の新規事業創出に寄与すると考える。
これら3つの事業価値のどれを、どう刈り取りに行くのか、そのためにどこに投資していくのか、の戦略立案が重要となる。
日本のプレーヤーの戦い方
最後に日本企業の戦い方について記したい。
前述したSidewalk Torontoにおいては、住民データをGoogleに独占されるのではないかという懸念が市民から立ち上がった。結果、開発地区のデータは地域の住民によるトラストの所有とし、Sidewalk LabsおよびGoogleは他社と平等な条件で承認を得た場合にのみデータを扱えることとなった。一方で、日本企業の信頼性は高く、規制緩和や行政との連携など自治体の協力を引き出し、内閣府スーパーシティ構想におけるミニ独立政府レベルで、市民・自治体との強力なパートナーシップを創出できると考える。
日本企業が今後のスマートシティビジネスで勝ち抜いていくには、前述の事業価値定義を明確にした上で、(1)日本企業は既存の強みであるリアルビジネスと信頼性を軸足に、(2)地方行政との強力なパートナーシップを前提とした、(3)スマートシティの取り組みを通じたデジタル変革による事業創出のスピードアップおよびオープン化、を実現することが重要である。(図4)

出所:アクセンチュア

アクセンチュア 戦略コンサルティング本部 マネジング・ディレクター
東京大学卒業後、1999年アクセンチュア入社。行政、公共事業体、民間企業の戦略立案から大規模トランスフォーメーションプロジェクトまで多く携わる。Corporate Strategyの立案や新制度・サービスの設計から導入による効果創出を実現。近年では、技術の進展に伴うデジタル戦略策定業務やスマートシティの構想立案に多数従事。2011年の東日本大震災以降、復興支援プロジェクトの責任者を務める。
藤井 篤之(ふじい・しげゆき 写真・右)
アクセンチュア 戦略コンサルティング本部 シニア・マネジャー
名古屋大学大学院多元数理科学研究科博士後期課程単位満了退学後、2007年アクセンチュア入社。スマートシティ、農林水産業、ヘルスケアの領域を専門とし、官庁・自治体など公共セクターから民間企業の戦略策定実績多数。
参考ページ:
https://www.accenture.com/jp-ja/insights/public-service/us-gaap-readiness