原点に立ち返る

 まず、ブランドのルーツとの結びつきを取り戻さねばならない。

 ブランドの正統性は主として、そのルーツである特定の国や地域との関係によって成り立っている。健全で正統なブランドは、そのつながりをロマンチックなストーリーにして広めてきた。かつて家令や地域社会のリーダーが担っていた役割を積極的に果たしてきたのだ。最近になって、偽造行為を社会的に認めさせまいとする努力の中で、みずからの立場や使命を見直し始めるブランドが出てきている。

 なかでも家族経営の企業は、内なる価値観と対外的な価値の一貫性を発信することに長けている。

 たとえば、2017年に年商が6億ドルを超えた、イタリアのカシミアと高級スポーツウェアメーカーであるブルネロ・クチネリは、1970年代に個人事業としてスタートし、いまではペルージャ近郊ソロメオ村の歴史ある本社に500名のスタッフを抱える。

 同社は従業員に「徹底してやさしい」経営スタイルを取り、地域の再生と地域文化の保全に熱心に取り組んでいる。村のインフラや歴史的遺産を修復するほか、仕立てなどの伝統的な職人技を教える無償の学校も立ち上げた。地元とそこに暮らす人々への長期的なコミットメントは、人間主義の企業、人間主義のモダンキャピタリズムを標榜する創業者のビジョンを下支えしている。

 地域再生には、実際的なアドバンテージもある。自国生産を復活させれば厳格な管理がしやすくなり、ルイ・ヴィトンやグッチ、バーバリーなども、これまで模倣品業者につけいる隙を与えていた供給・流通上の問題を容易にコントロールできるようになる。たとえば、海外の下請け工場が発注数量を超えて製造し、余剰分を別ルートに流して顧客に直接販売するような行為を、簡単に防ぐことができるだろう。

ロゴを超えて

 高級ブランドのロゴをプリントした安物のTシャツやショッピングバッグが、世界中のマーケットに溢れているいまでは信じがたいことかもしないが、シャネルの元祖ショルダーバッグ「2.55ライン」には、ロゴが付けられていなかった。ロゴがなくても、ひし形とヘリンボーンのキルティングでシャネルだとわかった。このラインは、60年経ったいまも廃れることなく、ブランドの象徴の一つになっている。マックスマーラのウールとカシミアの「101801 アイコン」コートも同じようにロゴのない定番商品で、コピーされたことはほとんどないはずだ。

 ここに一つの答えが隠されている。ロゴを盗むのは簡単だが、優れた職人技は簡単には盗めない。消費者をフェイク品に走らせないためには、簡単にコピーできない、ロゴに依存しないスタイルや品質を打ち出す必要がある。ブランドの正統性を高めるうえで、伝統的な職人技、手仕事、代々受け継がれてきた技法に重点を置くことは、非常に効果的な方法なのだ。

 この路線を実践してきたブランドの一つがLVMHだ。

 2018年10月には、4回目の「ル・ジュルネ・パーティキュリエール(Les Journées Particulières)」と呼ばれる、アトリエ開放イベントを開催した。

 2011年に始まったこのイベントでは、LVMHの建築・文化遺産を公開し、メゾンに受け継がれるサヴォアフェール(匠の技)や創造性に直に触れる機会を提供する。工房やワインセラー、プライベートマンション、ルイ・ヴィトン家の邸宅、歴史ある店舗など、うち半分はそれまで公開されていなかった、5大陸14ヵ国にわたる77の場所に一般の人々を招待した。合わせて18万人が講演、職人によるレッスンや実演、フラッシュモブなどに参加した。

顧客とのつながり方を見直す

 もう一つは、顧客側も変わりつつあり、そろそろ顧客に関する認識を改める時期に来ているということだ。

 現在のニューリッチといえば、ミレニアル世代であり、この層の倫理観や嗜好は、親世代とはかなり異なっている。彼らの価値観は、モノ、消費、所有から、経験、サステイナビリティ、シェアリングへとシフトしているのだ。

 それに応えるように、戦略をシフトしているブランドもある。グッチやバレンシアガ、イヴ・サンローランなどを傘下に持つケリング・グループは、生分解性のラメ、海藻や柑橘類から抽出した繊維など、製品に使用する再生可能な原料の割合を着実に増やしている

 アイウェア部門を例に挙げると、イタリアのバイオプラスチックメーカーと提携して、生分解性のフレームを開発している。また、「環境損益計算書(EP&L)」を導入しており、業界が変わりつつあることを示唆している。消費者からの反応もいい。たとえば、イヴ・サンローランの現在の売上げの65%を、ミレニアル世代が占めている

 寸法直しやメンテナンス、修理といったアフターサービスや、急増する中古ブランド品の取引なども、ラグジュアリー企業が検討すべき有望なビジネスだ。

 この領域で先駆けているのはオーデマ・ピゲで、2018年に中古ウォッチビジネスの立ち上げを発表した。こうした戦略を首尾よく展開すれば、製品ライフサイクル全体をコントロールできるようになるだろう。本物を手ごろな値段で提供することで、模倣品の「お得感」を変える効果も期待できる。


HBR.org原文:How Luxury Brands Can Beat Counterfeiters, May 24, 2019.

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ロベルト・フォンタナ(Roberto Fontana)
スイスの航空機メーカー、ピラタス・エアクラフトの訓練システム責任者。

ステファン J.G. ジロー(Stéphane J.G. Girod)
スイス、ローザンヌのビジネススクールIMDの戦略・国際ビジネス教授。

マルティン・クラーリク(Martin Králik)
IMD助教。マレーシアのクアラルンプールを拠点とする。