バイオベンチャーから転身
B to B事業を拡大したい

――医師とのネットワークはどのようにして築かれたのですか。

 ここは私の前職が生きました。前職のバイオベンチャーでは、副社長として大変な苦労もしましたが、最後はIPOを果たすことができました。このとき医療機関のサポートをしていたことで医師の人脈がつくれ、また患者さんの回復を自分のことのように喜べる気持ちを持つようになりました。もし自分が事業を起こすなら、病気で困っている人たちの力になれることをやりたいと思うようになったのです。

 ただ、医療の主役はあくまで医師ですから、いざ独立したときは隣接業界の福祉をやってみようと思うようになりました。福祉業界を調べていくうちに、精神障害や発達障害の人の自立を促す仕組みやそのビジネスモデルがあることを知りました。しかも、まだほとんど世間に認知されておらず、いまがチャンスだと、就労移行支援事業からビジネスをスタートさせたわけです。

――2017年10月に東証マザーズに上場しました。国の政策の影響を受けやすいビジネスモデルで、なぜあえて上場を選んだのでしょうか。

 上場までの厳しさは前職で体験していたことから、当初は上場するつもりはなく、設立してからずっと取締役も1人の体制でした。ところが、2016年の熊本地震で、熊本の事業所では利用者もスタッフも避難所生活を送らざるを得なくなったのを見て、私に「万一」があったときのリスクを考えていなかったことに気づいたのです。従業員も数百名を数えるようになり、パブリックな会社にして継続できる組織にしなくてはいけないと思いました。

 もう一つは、人材確保です。絶対欲しいと思った人が先に上場した企業に取られるケースが結構あったのです。私たちの仕事は人材が宝ですから、人材確保の面でも、より信用力の高い上場会社になるべきだろうと考えました。

――今後はどういう方向を目指されますか。

 就労移行支援事業の対象となる18歳以上65歳未満で精神障害のある在宅者が全国に200万人以上います。その需要にはまだ応え切れていませんから、広げていく必要があります。同時に18歳未満を対象にした療育事業も拡大していきたいと考えています。

 これまでは民間企業に対するB to Bのビジネスは行っていませんでしたが、今年4月に障害者雇用の総合的なコンサルティング業務を行う子会社を設立しました。ここでは、私たちがこれまで行ってきたサービスを民間企業に提供します。障害のある方々がやりがいを持ち自己実現できるような業務の切り出しや、働きやすい環境を作るための企業内での研修、すでに企業で働いている障害者の方への個別サポート、障害者の人材紹介などです。

 また、法定雇用率の問題から、障害者を雇いたくても社内環境が整っていない中堅・中小企業がたくさんあります。そのような企業に向け、新事業としてサテライトオフィス的なものを作り、そのブースを企業に貸し出して障害者の方に働いてもらうビジネスも展開していきます。

 こうした関連ビジネスは他にもまだたくさんあるはずです。すべての人が希望を持てる社会の実現にチャレンジしていきたいと思っています。