船を造る
あらゆる業界のあらゆるイノベーターと同じように、デュヴァネイも自分にとって重要なストーリーを作品にしたいと考えた。
2014年の映画『グローリー/明日への行進』(公民権運動時代にアラバマ州セルマでキング牧師が指揮したデモ行進を描いた作品)は、デュヴァネイが子どもの頃、この地域で夏を過ごした経験から着想を得たものだ。
2012年の映画『Middle of Nowhere』(人里離れたところ)は、デュヴァネイの故郷であるカリフォルニア州コンプトンが舞台で、夫が収監されて取り残された女性の人生の機微を描いた。
『ボクらを見る目』は、1989年に起きたレイプ事件で有罪判決を受けた無実のアフリカ系米国人ティーン5人の物語。当初、メディアは彼らに「セントラル・パークの5人組」というあだ名をつけたが、デュヴァネイは「潔白の5人組」として描き方を完全に変えた。
こうしたアイデアを作品にするまでに、どんな苦労があったか考えてみるといい。
コロンビア大学の研究者のアダム・ガリンスキーとジョー C. マギーは2017年、権力と地位は自己補強的なループを形成すると述べている。地位が高い人ほど、自分のアイデアに耳を傾けてもらえるというわけだ。
映画プロデューサーやプロジェクト・リーダー、あるいは既存のリーダーに似たタイプの人が出すアイデアは、早い段階で広く受け入れられ、その完成度を高めるのに必要な時間と精神的サポートを得ることができる。その成功は、発案者の成功を一段と後押しし、一段と多くのチャンスをもたらす。
一方、比較的地位の低い人(コネや経歴が乏しい人や、高齢すぎたり若すぎたりする人、女性、非白人など)が、同じようなサポートを得られる可能性は低い。それは彼らのアイデアが検討されて、価値がないと判断された結果ではなく、比較的パワーが乏しい人間のアイデアなので、耳を傾ける価値がないと思われるためである。
デュヴァネイもこうした状況に直面して、このループから離脱することを決意した。何度も門前払いを受けた結果、もはや実力者に接近してそのお墨付きをもらおうとするのをやめて、違うアプローチを取ろうと決めたのだ。つまり彼女は、新しい船を造ることにした。
2010年、デュヴァネイは社員2人で配給会社アレイ(Array)を立ち上げた。アレイは、女性と非白人が製作した映画だけをピア・トゥ・ピア方式で配給する会社であり、芸術団体であり、権利擁護団体だった。
デュヴァネイはアレイによって、みずからの視点、すなわち非白人を中心とするストーリーを描く必要があると主張した。自分と同じことを気にかける人を一人でも見つけたことで、デュヴァネイは、自分のアイデアを誰かに聞いてもらうという必須の環境をつくり出した。彼女はそれが、新しい市場をもたらすことを祈った。