潮流を見つける

 現代の社会では、スケールはシェアすることから生まれる

 ソーシャルメディアでつながった人々は、かつてなら大手企業や極端な金持ちしかできなかった方法でオーディエンスや市場にリーチできる。このように、スケールへのアクセスがフラット化すると、新しいアイデアは誰からでも出てくる可能性があり、伝統的なパワーや業界での地位がなくても、ブルー・オーシャンに到達することができる。つまり少数のクルーが航海に適した船に乗り込み、潮流を見つけ、勢いに乗ることが可能になった。

 アイデアは、共有から生まれる。

『ボクらを見る目』のアイデアが、不正に起訴された5人の1人であるレイモンド・サンタナ Jr.からデュヴァネイにもたらされたのも、潮流の結果である。サンタナは『グローリー/明日への行進』を見て、ツイッターでデュヴァネイに次のプロジェクトは何か質問した。「#cp5 #fingerscrossed(セントラルパーク5だといいんだけど)」というハッシュタグをつけて。これにデュヴァネイが返事を書き、そこからすべてが始まった。

 共有は市場のリーチも変える。

『ボクらを見る目』については、リリース直後の驚異的な反応以外はデータが公開されていないため、ここでは『ブラックパンサー』を例に挙げよう。ライアン・クーグラー監督がこの作品で描くのは、アフリカにある架空の王国の物語だ。ほぼ全キャストが黒人で、主要登場人物には強い女性が含まれる。その結果『ブラックパンサー』は、これまでのスーパーヒーロー映画で、人種的にもジェンダー的にも最も多様な観客を集めることに成功した。

『ブラックパンサー』が大成功を収めたのは、ニューヨーク・ファッションウィークやNBAファイナル、大学フットボールの決勝戦といった大型イベントでのプロモーションが奏功したにすぎないという声は多い。つまり、マーケティングの勝利だというわけだ。

 だが、ポジティブな連鎖反応は、製作元のマーベルがクーグラーを監督に選んだときから始まっていた。クーグラーは、ターゲット市場を熟知しており、そこで予告編を共有することにより、この映画をつくりたかった理由を過度に説明しなくても、クリティカルマスの観客を動員することができた。サウンドトラックのプロデュースを人気ラッパーのケンドリック・ラマーに任せたことも、ラマーのネットワークと市場リーチ力を巻き込み、映画を一段とスケールする助けになった(サントラはビルボードのアルバムチャートで第1位に輝いた)。

 こうした決断の一つひとつが、さらなるつながりと、さらなる共有をもたらした。

『ボクらを見る目』と『ブラックパンサー』の背景にある真実は、ブルー・オーシャンに至る潮流を捉える方法を教えてくれる。すなわち「自分は何者か」という理解が「何をつくるべきか」を変える。何を中心にすえるかが、プロダクトを変える。誰を仲間にするかが、生み出されるものを変える。そして、こうしてつくられたものが、それにエンゲージし、共有し、スケールする人を変える。

 デュヴァネイは、ブルー・オーシャンを発見する仕組みを教えてくれた。それは、世界で自分だけが立っている場所を大切にすること。たとえそのために、自分を拒絶し、無視し続ける部屋を去ることになったとしても、だ。また、自分の決意と目的意識を共有し、新しい真実をつくるために協力してくれる仲間を集めること。そして、そのビジョンを共有し、スケールできるコミュニティを見つけること、である。

 それは型破りな方法に見えるかもしれない。従来の世界を去り、ソーシャルになり、共有する――。直感とは相いれないアプローチに見えるし、レッド・オーシャンのリーダーには間違ってさえ見えるかもしれない。だが、成長と進歩とイノベーションはそうやって起きるものだ。探検家はそうやって、新しいテリトリーを発見するものである。


HBR.org原文:How Ava DuVernay Is Finding Blue Oceans in Hollywood, August 07, 2019.

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ニロファー・マーチャント (Nilofer Merchant)
個人で100のプロダクトをローンチし、180億ドルの売上げを達成。複数の公的・民間組織で理事や役員を務める。現在、スタンフォード大学で講義を持つほか、世界中で講演活動を行い、「Thinkers50」の世界で最も影響力のある経営思想家の一人に挙げられている。著書にThe Power of Onlyness(未訳)がある。