●低い変動費

 グーグル、エアビーアンドビー、Yelp(イェルプ)、ウーバー、ツイッター、フェイスブックは、拡張可能な仮想モデルを擁しており、わずかな費用で一夜にして飛躍的に拡大することができる。したがって、売上高を伸ばすことが、それに比例する出費をせずとも可能だ。

 Windows 10のコピーをもう一つ作成するのに、あるいはグーグルやフェイスブックがまた一人増えた顧客にサービスを提供するのに、いくらかかるだろうか。そのコストは比較的小さい。たとえばフェイスブックの売上総利益率は、80%~85%ほどとなっている。

 この特徴は、ウィーワークにはまったく当てはまらない。同社はオフィスレンタル会社であり、有料会員に無料のインターネット、ビール、軽食、コーヒー、仕事空間を提供している。たとえ同社がこの業界で最も成功し最大手となったとしても、甚大な運営コストがかかるはずだ。したがって、売上総利益率は高くないだろう(なにしろ、賃料に光熱費、維持管理、保険、セキュリティ、軽食、これらすべてに費用がかかる)。

 ●少ない設備投資

 現代のIT企業は大量のサーバー群に投資しているとはいえ、土地や建物、工場、倉庫の必要性が低いため、たいていは資産的に身軽であることに変わりはない。たとえば、フェイスブックが保有する物的資産は250億ドルにすぎないが、企業価値評価は5250億ドルだ。

 一方、ウィーワークは不動産の賃貸を行うため、それを最高品質の水準に開発・装備して、他のオフィス供給者と差別化しなければならない。また、賃貸物件は現在、固定資産と見なされている

 これらの事実は、次の2つを意味する。第1に、ウィーワークは典型的なIT企業と比べると、同額の売上高を上げるために必要となる資本がはるかに高額である。このためウィーワークは、内部で稼いだキャッシュをベースにして非線形的に成長できることは、けっしてないだろう。同社は、その野心的な成長計画に出資するよう、資本市場や金融業者にアプローチし続けることになる。

 もっと重要なこととして、同社にフリー・キャッシュフロー(同社の利益から設備投資を差し引いた額)を生み出す能力があるかは疑わしい。売上高の伸びが莫大な利益を生み出すフェイスブックとは対照的だ。フェイスブックはまた、成長を維持するために再投資する必要性が低いため、利益のほとんどがフリー・キャッシュフローであり、それを投資家に配当金として支払うことが可能だ。

 第2に、ウィーワークは資産的に身軽なIT企業よりも、資産価値の下落と損耗に関連する出費がはるかに高額となるはずだ。そのような損耗を一新するために、相応の出資が必要となるだろう。

 トレンディなオフィスに惹かれる顧客は、結局のところ、ヒューズの切れたネオンサインや擦り切れたカーペット、壊れた椅子やプリンタが日常的に交換されることを期待している。ウォーレン・バフェットが言及したように、このような交換費用に対する収入はない。したがって、資産的に身軽なIT企業の企業価値評価の場合、EBITDAなどの経営指標の標準を上回っていることに意味があるかもしれないが、これはウィーワークには無意味な概念である。

 ウィーワークが考案した指標として、コミュニティ調整済みEBITDA(利払い前、税引き前、減価償却前、建物やコミュニティ運用経費計上前の純利益)がある。すなわち、リース料やインターネットなどのサービスを提供するうえで最も基本的な経費を除外しているわけで、まったくもって話にならない。

 ●大量の顧客データとカスタマー・インティマシー(顧客との親密な関係)

 現代のIT企業(ウーバーやアマゾン、アップル、グーグル、イェルプ、テスラ、フェイスブックを思い浮かべてほしい)は、長年にわたりユーザーデータを収集・保管・編集・分析している。

 このようなデータは、ターゲット広告やカスタマイズされた商品の販売を可能としてくれるため、企業にとって実質的な価値があるだけではなく、ユーザーのスイッチング・コストを高めてもくれる。ユーザーがサービスを利用し、その見返りとしてカスタマイズされたソリューションを受け取るためである。

 ウィーワークがこのようなデータを収集するのかどうか、そしてそのデータをどのように活用して、顧客にとって身近なソリューションを開発するのかは定かでない。オフィス環境での行き過ぎたモニタリングと侵入は、プライバシー保護法の侵害となりかねない。

 ●ネットワーク効果

 現代のほとんどのハイテク企業にとって、ネットワークが大きいほど、企業の価値は飛躍的に高まる。

 フェイスブックの場合には、新規ユーザーが一人増えると、既存の顧客のネットワークの可能性を広げるため、たとえ離れていても既存顧客に対する価値を生み出すことになる。ウーバーやアマゾンに新たな顧客が一人増えるたびに、フィードバックの質が向上し、業務が最適化され、同市場に対応する業者の数が増えるため、既存のユーザーへの提供価値が向上される。

 だが、ウィーワークの場合には、たとえばインドネシアでユーザーが加わったことで、テキサスにいる既存の会員に価値が生み出されるとは考えにくい。会員は、グローバルに協働するためにウィーワークのネットワークを必要としていない。なぜなら、その目的を果たすためには、もっと大きくて優れたプラットフォーム(リンクトインなど)があるからだ。

 ●わずかなコストで拡張可能なエコシステム

 現代のIT企業は、顧客との関係や、顧客の好みや嗜好に関する情報を活用して、さらなるサービスを提供している。

 これは、エコシステム・パートナー(関連企業やサービス)の資産を活用して、わずかなコストで実現可能だ。たとえば、アップルはiPhoneを利用して、アマゾンはエコーを利用して、アプリ、音楽、動画、決済サービスを抱き合わせで提供している。このようなプラットフォームが掌中にある企業は、そのシステム全体で動く金から取り分を得られる。

 ウィーワークは、分譲住宅や学校などの他の不動産の領域に参入できるかもしれないが、そのためには多大な投資と新たな顧客への対応が必要となる。これに対し、ウーバーは、最低限の投資でウーバーイーツへの展開が可能である。

 まとめると、ウィーワークは飛躍的な成長を遂げて勝者独り占めの利益を手にできるような、現代のIT企業のいかなる資格も満たしていない。対照的に、アマゾン、テスラ、アップルのような資産と在庫を多く抱えた企業ですら、上記5つの基準のうち3つを満たしている。