●環境を整える
『最高の集い方』の著者プリヤ・パーカーは、会議が始まる前から、インクルージョンの環境を整えることが重要だと強調する。参加者を居心地よくさせるために、段階を踏んで準備をするのだ。
たとえば、会議の前に参加者にメールを送り、「話を聞くだけでなく共有する姿勢」で臨めるようにする。小さな動機づけにすぎないかもしれないが、日々の仕事でよくわかるように、このような状況で安心感を与えられるのがリーダーだ。
プリヤはさらに、リーダーは「謙虚な権威」を示そうと提案する。礼儀正しい態度ながら、誰が主導権を握っているかを明確にするのだ。あなたがリーダーだという雰囲気をつくるために、たとえば会議室に来た人に名前で呼びかけ、全員が着席するまで見届ける。
続いて、会議を始める前に、振る舞い方と考え方を明確にする。誰でも自由に発言できて、反対意見を述べても報復されないことを伝える。控え目な参加者がいる場合は、順番に発言する時間を設け、参加者同士の理解を深めよう。かなりの大人数なら、いくつかのグループに分けたり、途中で席を交換したりする。
●指揮者として
オーケストラの指揮者は、演奏のテンポをマネジメントする。音楽家たちの演奏に注意深く耳を傾けて調和させ、流れを積極的にコントロールして、ある楽器がほかの楽器をかき消さないようにする。
会議におけるリーダーの仕事も同じだ。指揮棒を振りながら、全員がそれぞれのパートを演奏できるようにマネジメントする。
強烈な個人が、会話を支配する場合も多い。性別や個人的な関心、仕事の上下関係など、共通点のある「排他的な集団」が仕切るときもあるだろう。このような集団は大きな存在感を示し、自分たちと同じ考えを支持して、過度に声をあげ、異なる見解をかき消しがちだ。強い人が目立ちすぎるときは、リーダーが一歩前に出て、逸脱しかけた人をなだめ、全員を議論に参加させる。
私たちのクライアントの成功例から、いくつかアドバイスを挙げよう。
・会議を始める前に基本ルールを決めて、徹底する。インクルージブな議論をすると決めたら、それに反する人がいれば指摘して、全員に自分の権利と責任を認識させる。
・場を支配する人やじゃまをする人には、特に注意する。誰かが議論を支配しようとしたときは、リーダーがあいだに入り、より広い対話へと引き戻す。
・誰かの発言が遮られたときは、すぐに止める。「ちょっと待って、ジャニスが何を言いたいのか、もう少し聞きたいから」「いや、私はルークの話に興味がある。ルーク、君の意見を最後まで言ってくれる?」などと声をかける。
議論のやり取りを積極的に調整できるリーダーは、全員が参加する余地をつくることによってインクルージブな空間を築き、グループ全体に敬意を育むことができる。
●率先して実践する
近年はほとんどの組織が、雇用慣行やチームづくりについて、多様性の基盤ができているだろう。インクルージョンにも同じ取り組みが必要であり、会議はもちろん、それ以外の場でも標準的なアプローチにするべきだ。
リーダーとして次のようなことから始めよう。
・インクルージビティを明確に定義する。
・会議におけるインクルージビティのあり方を明確にする。
・リーダーとして周囲に期待する振る舞いの手本となる。
・インクルージビティの徹底について、チームで説明責任を持つ。
リーダーがこのように振る舞えば、メンバーはあなたにとって耳障りのいい言葉を選ぶのではなく、自分の最良の考えを提案してもかまわないのだと感じ、本音を口にするようになる。
インクルージブな会議を率いるスキルは、みずから磨いて洗練させなければならない。チームのメンバーにフィードバックを求め、効果のあるやり方を見つけよう。会議の後に意見を聞くほかにも、メールや、匿名でコメントできる仕組みをつくるといい。
チェックリスト:インクルージブな会議でリーダーがやるべきこと
・参加者の顔ぶれを確認する。多様な視点や異なる意見を言う人が漏れていないか。
・事前に議題を知らせる。
・一人ずつ名前を呼びかけて、温かく迎える。全員が歓迎されていると思えるように。
・最初に会議の基本ルールを説明して、インクルージョンを育む場であることを明確にする。
・議論の調整と促進に努める。誰が発言して、誰が発言していないかを把握する。他人の話を邪魔する人、議論を支配しようとする人、話をそらそうとする人を黙認してはならない。
・議論に最後まで集中する。
・会議のフォローアップをする。参加者に感謝を伝え、フィードバックを求める。
会議のあり方は、時代とともに変化してきた。近年は、時差のある地域からバーチャルに集まることも多く、直接会う機会ははるかに減った。
しかし、それでも変わらないことがある。会議はいまなお、本当の意味でインクルージブな文化を築いて育てる場として、仕事で最高のパフォーマンスを発揮するための準備の場として、重要なのだ。そのような場を確実に提供することが、リーダーの仕事である。
HBR.org原文:To Build an Inclusive Culture, Start with Inclusive Meetings, September, 2019.
■こちらの記事もおすすめします
インクルーシブ・リーダーシップが組織のパフォーマンスを高める
政治的信条が多様なチームは質の高い仕事ができる
DHBR2019年9月号「ダメな会議から脱却する4つのステップ」

キャスリン・ヒース(Kathryn Heath)
フリン・ヒース・ホルト・リーダーシップ代表。共著に、The Influence Effect(未訳)。
ブレンダ F. ウェンシル(Brenda F. Wensil)
フリン・ヒース・ホルト・リーダーシップのパートナー。Twitterは@FlynnHeathHolt。