●他人に見習ってほしい手本を、みずから示す

 大半の人は、羨望を未熟で狭い心の現れだと簡単に片づける。中学生であれば、それが正しい処理方法だろう。だが、組織のリーダーが羨望心をあらわにすることは有害になる。

 それゆえに、リーダーは自分の羨望心を「悪い癖」と見なして、軽く扱わないことが重要である。気づかずにそのまま放っておくと、他人を軽視する企業文化が生じるおそれがある。リーダーたちが羨望に基づく行動をすると、チームは、いかなる対価を払ってでも欲しいものを得ようと張り合うことが許されると認識し、それがゼロサム思考に拍車をかける。

 このような文化、つまり他人の成功を支えるのではなく羨望するような文化の浸透を助長すると、自分と他人を常に比較している集団と一緒にいることになる。その結果、チームと一緒に勝つのではなく、チームに勝つことが優先されるおそれがある。さらに、自分の職務に一過性ではない満足感を見出すことが難しくなり、グループとしての成功を心から喜べなくなる。

 ここで単に、「羨むな」と告げるのは問題を矮小化しすぎだろう。人を率いるのは努力を要することで、時には自分自身やチームのメンバーが不快になることも避けられない。

 リーダーの過ちは公になり、意思決定は誤解される。リーダーのステータスは誰もが羨望する。しかし、リーダーであることのプレッシャーに押しつぶされそうになっても、比較という手段に訴えるのをできるだけ避けたい。害を及ぼしかねないからだ。

 その代わりに深呼吸をして、バランスの取れた見方に戻るのを助けてくれそうな、信頼の置ける仲間と話をしよう。羨望心を持ったり、逆に羨ましがられたりしているときは、誰かに話すことで、状況を客観的にとらえることができるようになり、比較が生み出すゆがんだ視点は元に戻る。

 ●自分の持っているものに満足し、持っていないことを受け入れる

 リーダーは、チームの感情面に他のメンバーよりもはるかに大きな影響を及ぼす。リーダー自身が羨望を感じたときに適切に対処せず、他のメンバーにも同じような感情を生じさせることで、一時的にはエゴを満足させられるかもしれない。だが、時間が経つにつれ、チームから集めたいと思っていた敬意はどこにも見当たらず、チームの士気も下がっている。

 にもかかわらず、多くのリーダーは自分の羨望の根源について考えてみるより、反射的に(意識的であれ無意識であれ)他人の羨望心を刺激することで、自分をよりよく見せようとする

 何気なく自分の新しい高級車を話題に出したり、ミーティングで会った最高幹部の名前を出したり、自分の子どもの達成したことを自慢したりして、他人に引け目を感じさせる。皆の前でメンバーの一人をほめちぎるような、一見サポートをしているような行動さえも、パワープレイに他ならず、誰がボスなのかを皆に知らしめている。

 このような行動を避けるために、自分が引け目を感じた瞬間を認識し、対処しよう。もし次回、他人の業績や特権に対して引け目を感じたら、比較をして害を及ぼす代わりに、自分自身に目を向けるのだ。次のように問いかけ、自分が引け目を感じる根源を見つけ出そう。

・彼らが持っているもので、自分に引け目を感じさせるものは何か?
・それを持っていることで、どんな穴が埋められると思うか?
・彼らがそれを持っていなかったら何が起こると、自分は思っているのか?

 自分の感情の根源をいったん認識できれば、それを変えることは可能だ。

 たとえば、上司が他のリーダーにプロジェクトを任せたとしよう。あなたは、その理由は、上司が自分よりそのリーダーのほうが適任だと思っているからだと考えている。だが、それを裏付ける証拠はない。

 そんなときは憤り続けているより、その根源に行き、上司に確認してみるといい。自分がまったくの思い違いをしていたと気づくかもしれない。自分の感情を根源まで掘り下げることは、自分にはコントロールできないこと(上司の真意)から、コントロールできること(上司の真意に関する自分の解釈)へと焦点を移すのに役立つ。

 このような自己診断のプロセスは、羨望を感じたり引き起こしたりする、最初の衝動を抑える一助になる。それを感謝の心に置き換えよう。

 なぜ自分がそのプロジェクトを勝ち取れなかったのかとふてくされる代わりに、同僚のリーダーに「おめでとう、成功を祈る」と声を掛け、手伝いを申し出るといい。自分の成功を見せつける代わりに、夜遅くまで働いたチームのメンバーに夕飯をごちそうするといい。

 話の筋書きを変えることを学べば、将来同じような状況に直面したときに、自分の羨望心をコントロールできるはずだ。

 ●羨ましがられたら苦々しく対応せず、優しさを示す

 リーダーたちはしばしば、望んでもいない羨望を受ける。

 リーダーと他のメンバーとの差を最も明白に際立たせるのは、役職に伴う高いステータスであることが多い。他人からすれば、リーダーたちは高い給料や重要な意思決定における意見の重みなどの「特権」を持っているように見えるかもしれない。つまり誰であろうとリーダーは必ず、他人に羨望されることがあり、それによって嫌な気分にさせられることがある。

 著述家のマーク・スタインはみずからの研究で、自分の持っているものや自分が誰かということをリーダーと比較することで、組織のメンバーは劣等感や攻撃欲、破壊欲を呼び起こすことを示している。羨望する人を昇進させるかどうかを決めるのがリーダーである場合、この傾向はより強くなる。

 そのような状況では、リーダーは孤立し、誤解されていると感じるだろう。未決書類箱がいっぱいで自分はオフィスから出られないのに、他の人たちが職場を早めに出たり、同僚と一緒にハッピーアワーに行ったりする様子を目にすることもあるだろう。「だからこそ、あなたには高い給料が払われているんですよ」というような、直属の部下たちの皮肉を込めたジャブが自分の職責を苦々しく思わせ、自分にはない自由を楽しんでいる人たちや、自分が背負っている重荷を理解できない人たちに対し、憤りを感じることさえあるかもしれない。

 だが、客観性を保つことがリーダーの仕事の一部であることを忘れないでほしい。チームのメンバーから、あるいはチーム全体から不要な羨望を引き起こしたときに、チームが感情をうまくコントロールするよう手助けすることは、リーダーの責任である。自分の役割に対する要求がいかに大変かということを部下たちが理解していなかったり、「リーダーには特権があっていい」と誤解していたりしていても責めてはいけない。

 その代わりに、弱い面を見せて共感してもらおう。上司と部下の適切な距離を保てるなら、高い要求の一部を見せてもよい。グチを言ったり文句をぶちまけたりするのではなく、直面している困難な状況を共有するのだ。

 たとえば、ストレスが高まっているときに「いまから数週間、私が取締役会でのプレゼンテーションの準備をしている間は、少し辛抱強く接してほしい。とても不安に感じていて、普段通りに対応できないかもしれない」と言う。苦々しく思わずに心を開けば、チームのメンバーはリーダーに共感するだろう。

 羨望が破壊的になるのは、我々が無意識のうちに、羨望するのは当たり前のことだと思ってしまうからだ。インスタグラムに公開された上司の休暇中の写真を羨むことや、金曜の夜の予定を同僚に大げさに話すことなど、自分と他人を比較することほど破壊的な評価法はない。いったんこのような評価法を頼りにして自分の価値を定め始めると、私利追求欲や自己防衛心が寛容さや謙虚さ、レジリエンスを打ち消してしまう。

 お互いを支え合ったり、自分の間違いを認めたり、助けを求めたり、挫折に屈折せずにやり通したりできる人たちから成るチームを率いたいのなら、支援と友好心の文化を築くことに真剣に取り組むといい。そうすれば、チーム全員がメンバー同士との比較から自由になり、目標に焦点を絞れるようになる。さらに重要なことに、リーダー自身も他人との比較から自由になり、チーム全員が目標を達成するためのサポートができるようになる。


HBR.org原文:How to Keep Envy from Poisoning Your Team's Culture, September 17, 2019.

■こちらの記事もおすすめします
幸福を追求するがあまりパラドックスに陥ってはいないか
上司は同僚だけでなく、自分の部下にも嫉妬する
DHBR2019年5月号特集「セルフ・コンパッション」

 

ロン・カルッチ(Ron Carucci)
米コンサルティング会社ナバレント(Navalent)の共同創設者、マネージングパートナー。組織やリーダー、業界の変革を目指す企業のCEOと幹部を支援する。ベストセラー作家でもあり、著書に最新刊Rising to Power(未訳)など8冊がある。ツイッター(@RonCarrucci)でも発信している。ナバレントのサイトで、彼の電子書籍Leading Transformationを無料でダウンロードできる。