雇用主の場合

 本当の変化は、雇用主が平等の重要性を理解し、職場における差別縮小に積極的に動いたとき、初めて起こるものだ。雇用主の支持を得られなければ、長年の問題を是正することはできないだろう。

 あなたがマネジャーで、差別の通報を受けた場合、難しい問題に対応するヒントをいくつか示しておこう。

(1)データを正直に見直し、独立した第三者に申し立てを検討してもらう

 特に賃金格差が問題の場合は、その主張を真剣に受け止めている姿勢を示すと、あなたは従業員から大きな信頼を得られるだろう。一方、やってはいけないことを知りたいなら、米国サッカー連盟がいい例になる。同連盟は女子代表チームの主張とは無関係の証拠を示して、その主張に反論しようとした。その結果、女子代表チームだけでなく、男子代表チームや世論の信頼も失ってしまった。

(2)どんなに不愉快な主張でも、そこから学習して成長しようとする

 守りの姿勢に入らないこと。米国サッカー連盟は世論の支持を得ようとして、女子代表チームは実のところ、男子代表チームよりも高い賃金を得ているとの声明を発表した。だが、両チームは賃金体系が異なるため、単純に比較することはできない。女子代表チームには基本給があるが、男子代表チームは主に成果ベースで支払われる。だから連盟は男子代表チームから、「虚偽の説明」だと指摘され、世論からも厳しい視線を浴びることになった。

 そうではなく、差別を申し立てた人に寄り添い、自分の組織が見落としていることはないか、社内を正直に見直そう。たとえその結果、差別は存在しないことが明らかになったとしても、不服申し立てが起きた背景を理解するための追加措置を取ろう。この場合は、信頼再建に重点を置くべきだ。

(3)差別を生じさせている可能性がある構造的・業界的な問題点を把握する

「組織のポリシーや慣行を見直す時間をつくろう」と、クーキーは言う。「女子サッカー米国代表チームの場合、女子チームは男子チームほどの収益をもたらしていないと連盟が言うなら、それはなぜなのか。女子チームのマーケティングはどうなっているのか考えるべきだ」

 クーキーによると、連盟が女子代表チームの試合にかける宣伝費やマーケティング費は、男子代表チームの試合よりも少ない。また、メジャーリーグサッカー(MLS)の試合は、ESPNで放映されており、協会は高額の放映権収入を得ているが、女子サッカーリーグ(NWSL)の試合は主にYouTubeで「放映」されてきた。ようやく2019年7月、ESPNは女子リーグの2019年度後半戦を放映することで合意した。たとえ半分でも、テレビで1年間に放映される女子リーグの試合数としては過去最多となる。これまで女子チームの収益が男子チームよりも少なかったのは、構造的な要因もあったのだ。

 あなたが組織のリーダーで、同じような状況に直面したら、平等を実現するためにどんな措置を取れるか考えよう。職場の構造が一部の従業員に有利になるような設計になっていないだろうか。このような視点を持たなければ、その場しのぎ的な解決策しか思いつかないだろう。最悪の場合、問題をはらんだ状況を持続させて、従業員の信頼を失い、最終的には顧客の信頼さえ失いかねない。

 現在は、歴史に例のない時代だ。#MeToo運動や、男女平等を求める運動が世界中で勢いを増し続けている。女子サッカー米国代表チームの同等な賃金を求める戦いは、組織の構造的な壁を打ち破り、長期的な変革を起こすうえで、集団行動が強力な効果を発揮することを示した。そして彼女たちが起こした裁判は、米国サッカー連盟のような雇用者が、差別やバイアスへの対策を強化しないと、どのような結果になるかも示した。

 従業員に職場で最善を尽くしてほしいと思うなら、経営者やマネジャーは米国女子代表チームのスローガン「同等のプレー、同等のペイ(賃金)」を肝に銘じるべきだ。


HBR.org原文:7 Lessons from the U.S. Women's Soccer Team's Fight for Equal Pay, September 25, 2019.

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ルチカ・トゥルシャン(Ruchika Tulshyan)
インクルージョンを専門とするコンサルティング会社キャンダー(Candour)創業者。シアトル大学非常勤講師。著書にThe Diversity Advantage(未訳)がある。