資生堂はなぜひとつのブランドで
2つのアカウントを使ったのか

 資生堂の「recipist(レシピスト)」という若年層向けの新しいスキンケアブランドでは、ブランド公式アカウントに加えて、キャンペーン用として「たおりゅう」というアカウントも展開している。公式アカウントでブランドの世界観と商品を紹介する一方で、プロモーションアカウントとして立ち上げた「たおりゅう」は、俳優の土屋太鳳と横浜流星の2人を起用したストーリー仕立てとし、ターゲットとする20代の女性の興味を喚起し、ブランド認知の拡大を図っている(*)。

 資生堂ジャパン 事業戦略本部アシスタントブランドマネジャーの服部裕子氏は、Instagramを活用しようと考えた理由について、「20代の女性にとってInstagramは毎日見ているメディア。この世代のトレンド、流行っているアイテム、友だちの近況、ブランド情報や使い方などをチェックする場所だからです」と語った。

 20代が最も接触しているツールはスマホであるため、レシピストではInstagramをメインメディアとして、広告やプロモーション活動に活用することを決めた。リアルタッチポイントとなる屋外広告や交通広告のクリエイティブでも、スマホの画面に合わせた縦長のビジュアルを使った。スマホで撮影した画像をユーザーがそのままInstagramに投稿できるようにしたのだ。また、広告コピーをハッシュタグにして、Instagramに誘導する工夫も施した。

 広告画像であっても、20代の若者たちは興味関心があればすぐに撮影したり、保存したりして、Instagramで拡散する。その結果、「十分に認知を獲得できた。それに加えて、(Instagramユーザーとの)エンゲージメントも深まったので、ROI(投資対効果)はよかったと考えている」と服部氏は振り返る。

 レシピストの公式アカウント運営を支援しているテテマーチの三島悠太氏は、「ブランドのウェブサイトのコンテンツを転用するだけでは、Instagramユーザーには伝わらない。公式アカウントでは、月ごとにテーマを設定し、ターゲットの女の子の1日を描いている。それによって、ブランドの世界観を自然と伝えている」と語る。

*レシピスト全体のマーケティングサポート、および「たおりゅう」アカウント運営については博報堂が担当

モバイルの世界で1秒は長い
メインメッセージは冒頭の3秒以内に

 フェイスブック ジャパンのクリエイティブ ストラテジスト、栗山修伍氏は効果的なクリエイティブについて解説した。ポイントは以下の3つだ。

 1.美しく、ひと言で伝える
 2.一瞬でアテンションを捉える
 3.縦画像を最大限活用する

 モバイルの世界は高速だ。デスクトップと比べるとモバイルでは画面をスクロールする速度が約1.5倍だという。米マサチューセッツ工科大学の調査では、2001年に0.3秒だった人間の画像認識の処理速度は、2014年に0.03秒、直近の調査では0.013秒にまで高速化しているという。つまり、「モバイルの世界では1秒間はとても長い」(栗山氏)のである。だからこそ、上記の3つのポイントが重要となる。

 例えば、モバイルにおけるストーリーテリングの基本的な考え方は、テレビCMなどと大きく異なる。テレビCMでは長さが15秒でも30秒でも、最後にメインメッセージを流すことが多いが、モバイルでは冒頭から3秒以内にメインメッセージを入れないとアテンションを捉えることは難しい。このため、テレビCM用のクリエイティブをモバイルで活用する場合には、再編集する必要がある。

 このようにモバイル最適化したクリエイティブを具体的にどう制作すればいいのか、悩んでいる企業もあるだろう。だが、最近ではモバイル動画の制作を専門とする企業も増えている。栗山氏と共に登壇したKaizen Platform社長の須藤憲司氏は、既存のテレビCMやプロモーション動画をモバイル用に最適化したり、複数の静止画からモバイル動画を制作したりする同社のサービスを紹介した。

 続くセッションでは、サイバーエージェント インターネット広告事業本部統括の羽片一人氏と、「モテクリエイター」の“ゆうこす”こと菅本裕子氏を招いて、インフルエンサーマーケティングについての知見が披露された。

 インフルエンサーとして、Instagramで45万人のフォロワーを持ち、うち8割が女性という菅本氏は、タグ映えする画像と長い文章を投稿し、文章の最後は疑問形にすることが多いという。そうすることでコメントが増え、フォロワーとのインタラクティブなコミュニケーションが生まれるからだ。

 また、自分のアカウントでブランドを紹介する際には、クライアントの担当者と直接会って打ち合わせを重ね、「そのブランドのオタクになって、細かいところまで伝えるようにしている」。その熱量が、共感を生むと考えている。

 羽片氏は、Instagramではフォロワー数だけでなく、投稿画像が保存されているかどうかをKPI(重要業績評価指標)にするべきだと指摘。また、「インフルエンサーは消費者の代表なので、クライアントは必ず面談して、ブランドのことをきちんと理解してもらうことが大切」と語った。

 さらに、インフルエンサーが投稿したコンテンツをプロモーションに活用できるブランドコンテンツ広告については、「広告」のクレジットが表示される点を評価。広告としての透明性、誠実性が担保されており、「非フォロワーが見ても違和感がなく、広告として安心して活用できる」とした。