ノーヴァント・ヘルス・リーズは2015年、アトゥール・ガワンデの『死すべき定め』8500部とともに始まった。出版社にお願いして本の表紙にロゴを入れ、CEOの手紙を挿入してもらった。以来、プログラムで使用する本はすべてそうやっている。

『死すべき定め』を選んだのは、「チョイシズ・アンド・チャンピオンズ(選択と代弁者)」の重要性をメンバーに知らせるためだった。これは、患者の望みを知り、それを尊重するように終末ケアのあり方を変える、当院の新しい取り組みである。

 それまでにもさまざまな方法で、終末ケアを改善する努力を重ねていたが、多忙な臨床医に重篤な患者と話をさせるのは、なかなか難しいことだった。『死すべき定め』について議論し、当院が準備した学習ツールや関連資料に触れたメンバーは、我々がなぜ終末ケアに力を入れ、長期的に取り組んでいるのかを理解することができた。

 ガワンデ医師が語った、父親の死をめぐるみずからの体験談も、メンバーがこうした問題を自分ごととして受け止め、それぞれが家族と話をするきっかけになった。この最初のプログラムのハイライトとして開催した、ゲワンデ医師のライブイベントは、ノーヴァント・ヘルスの180拠点に放送された。このすべてが終末の問題に関する豊富な議論を生み、死や、死にゆくことをよりオープンに、共感的に捉える文化の醸成に役立った。

 2016年には、『死すべき定め』に続いて、ショーン・エイカーの『幸福優位』を選び、1万5000人に配布した。我々の焦点を医療周辺の問題から自己啓発へと移したのだ。

 この本は、ポジティブなマインドセットを醸成することが、活力や創造性、生産性を高めるという内容だったため、従業員エンゲージメントや従業員満足、燃え尽き症候群(バーンアウト)の緩和に関する、一連の取り組みを後押しする読書討論会となった。この本の教えは新人医師研修でも活用され、従業員ハンドブックの改訂版にも盛り込まれた。

 3年目は、再び医療に関するトピックを取り上げた。精神疾患や依存症など、慢性脳疾患を持つ人たちに対するスティグマ(負の烙印)を排除し、ケアへのアクセスを向上させる必要について、である。

 元連邦議会議員のパトリック・ケネディが書いたA Common Struggle(共通の闘い)(未訳)を1万7000部配布し、この本を中心としたプログラムを通じて、メンバーが次々と自分の体験談を語ってくれた。当院の患者サービス担当バイスプレジデント兼患者支援執行役員のメリッサ・ペレル・パーカーが、双極性障害と薬物依存症の子どもを持つ親としての体験を語り、院内ニュースレターにも連載記事を寄せると、これを皮切りに、何百人ものメンバーが精神疾患や依存症に関する、みずからの体験を明かしてくれたのだ。

 こうした取り組みが引き金となり、ノーヴァント・ヘルスにおける麻薬系鎮痛薬オピオイドの乱用対策が促進され、また依存症を取り巻くスティグマの軽減を目的とした委員会を発足された。ケネディ氏来訪の際、医師や運営に携わる幹部、政府渉外の担当者が集まり、オピオイド乱用問題に対する国および自治体レベルの対策、今後必要な取り組みを議論した。

 この読書会は最終的に、当院における精神疾患や依存症に関するサービスの患者負担金を大幅に削減することにつながり、スタッフ自身がより簡単に安くケアを受けられることにつながった。こうした努力のおかげで、当院はノースキャロライナ・アディクション・プロフェッショナル協会から「Outstanding Recovery Ally Award(回復支援優秀賞)」を授与された。

 2018年には、アマ・マーストンとステファニー・マーストンのType R(未訳)を取り上げた。問題をチャンスに変えて「ただ立ち直るのではなく、弾みをつけて前進する」、あるタイプのレジリエンスについて書かれた本だ。

 医療機関では、育児やリーダーシップやサービス業と同じように、個人のレジリエンスが極めて重要で、それを維持し、人のために働くためには、定期的な燃料補給が不可欠である。Type Rの読書会や、執筆サークル、ウェビナーなどの関連プログラムは、臨床医やリーダーに関する個人およびコミュニティの一員としてのレジリエンスの重要性に重点を置き、それまでの当院のレジリエンスプログラムを強化するものとなった。

 さらに重要なことは、1万6000部配布された本書に関する議論が、現在ノーヴァント・ヘルスで使用されている、正式なレジリエンスモデルの形成につながったことである。

 このプログラムでは、レジリエンスに関するビデオと、ACE(逆境的小児期体験)に対する認識を高めるための全社的なディスカッショングループもつくられた。ACEは、生涯続くような対人関係や健康上の問題につながる可能性があるため、臨床医が小児期トラウマを体験した患者のレジリエンスを引き出し、強化するための支援組織とどう連携できるかに焦点が当てられている。

 今年度は、レナ・オーディッシュのIn Shock(ショック状態)(未訳)を読んでいる。救命救急医である作者が突然瀕死の患者になった体験や、現在の医療システムの欠点と改善方法に関する私見が書かれている。

 今回は1万7000部配布した。ビデオ会議システム「ズーム」を使ってバーチャル読書討論会を開き、いろいろなスタッフが患者として体験したことを語った。当院では現在、担当した患者を亡くした臨床医が、表には出せない哀しみを克服するためのプログラムをつくっている。

 組織全体にわたるノーヴァント・ヘルス・リーズの参加者の熱意と、そこから生まれる前向きな変化は、どの医療機関も同様の取り組みを始めることでメリットが得られことを示唆している。当院の医師スティーブ・スティンソンは、この取り組みを「我々の魂の糧になるプログラム」と表現した。より詳しく知りたい方は、NovantHealthReads@NovantHealth.orgまでお問い合わせいただきたい。


HBR.org原文:What a Companywide Book Club Could Do for Health Care Systems, October 31, 2019.

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メリッサ・パーカー(Melissa Parker)
ノーヴァント・ヘルスの患者支援執行役員兼患者サービス担当バイスプレジデント。

シャロン・ネルソン(Sharon Nelson)
ノーヴァント・ヘルスのヘルスヒューマニティーズ(医療者人文学教育)・ギフトショップ運営コーポレートマネジャー。