
医療業界はすでに、人工知能(AI)を積極的に活用している。ただし、それは病気の予測が中心であり、病気の原因を理解するための取り組みはまだ発展途上だ。筆者らは、因果推論にもAIの力を活用することができ、それは医師にも患者にも大きなメリットをもたらすと主張する。
医療業界のリーダーは、人工知能(AI)をすすんで取り入れている。しかし、ケーススタディや研究文献を幅広く調べてみると、そのAIイニシアチブの大半は、癌のような病気を予測する能力があるアルゴリズムの開発に集中している。より正確に、より早く、より安く診断するためである。
医療組織が、病気の原因を理解することを目的としたAI開発にリソースを費やすことはめったにない。だが、できる限り効果的に病気と闘うためには、両方の種類のアルゴリズムが不可欠である。
誤解のないように言っておくと、我々は患者の診断に役立つ予測分析の重要性を過小視しているわけではない。予測分析は実際、人々の命を救っている。
ベス・イスラエル・ディーコネス・メディカル・センター(BIDMC)は、どの患者が予約通り来なかったり、治療をさぼったりする可能性があるかを予測するモデルを使って、患者に事前にメッセージを送るなどの先手を打つようにしている。グーグルのディープマインドは米国退役軍人省とともに、急性腎障害の発症を予測できるテクノロジーを開発した。急性腎障害は入院患者の5人に1人に発症するが、この技術を使えばいまよりも48時間早く診断できる。
しかし、深層学習(ディープラーニング)のような予測モデルは、データの中の複雑なパターンを発見することで、主に患者の転帰を予測する。たとえば、いくつもの皮膚病変のイメージを示すと、新しい病変のイメージは悪性と良性のどちらと診断されるかを予測できる。
予測モデルは、我々がすでに行っている作業の担い手を人間、この場合は放射線医からアルゴリズムに移すことで作業内容を改善している。最近のHBRの記事で注目されたように「……AIが現在、最大の価値を生み出しているのは、最前線で働く臨床医の生産性を上げたり、バックエンド処理の効率を上げたりするのに役立つ点である。だが、臨床的意思決定を下したり臨床的転帰を改善したりするまでには至っていない。病気の原因を特定する臨床的応用は、いまなおまれである」
対照的に、因果推論アルゴリズムを使えば、癌を引き起こす潜在的要因を突き止められる。さらに、その知識を使って新しい薬を開発したり、誰がその薬による治療を受けるべきかを見極めたりすることができる。
医療において、原因を追求するための通常の手法は、ランダム化比較対照試験を行うことだ。しかし、そのような試験は高額で時間がかかり、さまざまなタイプの患者を十分に代表している標本にならず、実行不可能なことが多い。
それに対してAIの因果推論アルゴリズムならば、観察データから因果関係を推定し、異なる要因がどのように相互作用し、どの要因が何を引き起こしているのかを教えてくれる。「もし~だったらどうなるか」のシミュレーションもできる。たとえば、治療を10倍増やしたら病気の転帰にどんな影響を及ぼすかといったシミュレーションである。