因果推論AIのための新手法は、いままさに開発と検証の真っ只中にある。ここにはベイジアンネットワーク、構造方程式モデル、ポテンシャルアウトカム・フレームワークが含まれる。我々が特に価値を見出せると考える分野を下記に挙げる。
●病気のメカニズムの発見
GNSヘルスケアはアライアンス・フォー・クリニカル・トライアルズ・イン・オンコロジー(米国における白血病・癌臨床研究グループ)との提携で、大腸癌のメカニズムをよりよく理解し、患者の生存率を上げることを目指した。
彼らは2種類の異なる薬による治療を受けた2000人以上の臨床試験データを用いて、因果推論モデルを構築した。これにより、生存のためのバイオマーカーになりうる分子レベルと臨床上の原因を突き止めることができ、医師たちは的を絞って適切な患者に適切な治療をすることができる。
●治療の最適化
おそらく最も直感に反することの一つであると同時に、高い期待が寄せられる因果推論AIの利用法は、医療提供者の意思決定を支援することである。患者のリスクを評価して最適な治療を選ぶ予測モデルでは、時折信頼できない治療法を提案することがある。
たとえば、肺炎にかかったぜんそく患者が死に至る確率は低いという、誤った予測をしたモデルがあった。実際には、そうした患者はただちに集中治療室(ICU)に入れるという病院の方針のおかげで、肺炎にかかったぜんそく患者が死に至るケースは少なかったわけだが、モデルはそのことを考慮に入れていなかった。
この転帰に基づいて導き出された方針に従ったら、ぜんそく患者にあまり手をかけないという危険な提案をしかねなかっただろう。因果推論AIモデルならば、こうしたリスクを回避できる。
スーチ・サリア博士は反実仮想モデルを適用している。そのようなモデルは「もし~だったらどうなるか」の論法を使って、連続時間の軌道(たとえば病気の転帰)が異なる一連の行動(たとえば医療の介入)のもとでどのように進むかを予測する。サリア博士のチームは、ICUで透析治療中の腎臓病患者のデータを用いて、肝不全が起きたときに増えるクレアチニンの量を調べ、どんなタイプの透析を、どの患者に、いつ行うべきかを個人レベルで対応するモデルをつくることができた。
●健康の社会的決定因子
米国を初めとする世界の医療の専門家は、患者を取り巻く社会的要素がどのように健康に影響を及ぼすかを理解しようと奮闘している。
我々が率いるサーゴ財団は、インドのウッタル・プラデシュ州の女性の20%が、健康リスクを承知しながら自宅で出産することを選んだ理由を理解するために、インドで調査した。因果推論の機械学習技術を使ってわかったことは、たとえば投資の大半が近隣に病院を建てることに集中しているにもかかわらず、病院までの距離が女性たちに自宅出産を選ばせているわけではない、ということだった。
我々はまた、女性たちが自宅での出産を好んでいるとも仮定した。しかし、医療施設での出産を決める重要なポイントは、出産準備の計画の有無(たとえば、そこへ行くための交通手段が確保できているかなど)に加えて、病院は安全ではないと信じているかどうかにあることがわかった。その結果、適切な人たちに的を絞り、適切なメッセージを送することで、介入できるようになった。