第1の研究では、授乳中の女性における、典型的な就業日の実態を把握することにした。

 米国でフルタイムで働く授乳中の女性38人にインタビューしたところ、我々の予想通り、搾乳が仕事の妨げになり、仕事が搾乳の妨げになっているという現実を語ってくれた。ある女性は、次のように話している。「今日のように忙しい日があります。この会議があって、13時に歯医者の予約がある。それを避けて搾乳しなければならないんです。それに金曜日には、会議が立て続けに入っていることがあります。そういう日には、搾乳を諦めることしか考えられません」

 職場での搾乳が日々の負担になっているという回答にもかかわらず、彼女たちへのインタビューで、職場での搾乳は心を豊かにもすると聞き、我々は驚かされた。これまでの研究では、職場で家庭に関する問題に対応することは、典型的なストレスの原因と考えられていたからだ。だが、私たちが話を聞いた女性の一部は、職場で搾乳することに日々の充実感や達成感を覚えていたのだ。

 ある女性は、「仕事に復帰しても諦めたくなかったものを、自分の体で赤ちゃんにあげられるって、本当に素晴らしいことなんです」と言った。別の女性は「ものすごく大変でしたが、その価値は1000%あります」と語ってくれた。

 我々は次に、こうした体験の質に関わる要因、すなわち職場での搾乳体験を否定的あるいは肯定的に感じさせる要因について、さらに詳しく調べてみようと思った。また、そうした要因が仕事の成果と母乳の生成という2つの面で、女性の生産性にどう影響するのかを把握しようと考えた。

 第2の研究では対象者を106人に広げ、オンライン調査によって、15就業日の職場での搾乳について回答してもらった。

 その日、搾乳が仕事の妨げになったと感じたか、あるいは搾乳がうまくいって心が豊かになったか。搾乳する場所の質はどうか。またその日の気分(「落胆している」「気持ちが沈んでいる」「満たされている」「リラックスしている」など)についても質問した。最後に、その日を振り返って、仕事の目標と授乳の目標(職場での母乳量)に対する達成度と、仕事と家庭のバランスに関する満足度はどうだったか尋ねた。

 調査の結果から、女性が搾乳が仕事の妨げになると感じた場合は、感情面も悪化する傾向が明らかになった。そうした日は、仕事の進捗も芳しいものではなく、職場での母乳量も少なかった。だが、女性が職場での搾乳で心が豊かになったと回答した場合には、結果は逆転した。幸福感が増し、仕事の目標と母乳量の目標についても結果が向上した。

 さらに、搾乳時間と職場での生産性との間に有意な関係は見られなかった。これらの結果は、女性が搾乳にかける時間は仕事の生産性を低下させるものではないことを示している。職場での搾乳に満足感があると、実際には生産性を向上させるのだ。

 搾乳は母親にも子どもにも有益であること、そしてマネジャーと同僚は搾乳の必要がある女性をサポートする職場環境と場所を設けるべきであることが、明らかになってきている。では、どのようなサポートが必要なのだろうか

 まず、ゆとりのある快適なスペースの提供は不可欠だ。調査の結果では、快適でプライバシーを保てる静かな場所で搾乳できた女性は、前向きな気分になる傾向が見られた。また全般的に、授乳中の母親に対して思いやりがあり、スケジュールが柔軟であることの効果は大きい。こうした努力によって、働く母親の満足度は高まり、生産性が向上し、帰ったら子どもに与えたい搾乳した母乳を携えて、家に向かうことができるだろう。

 今後の研究ではさらに、職場で搾乳する女性を企業がサポートするためには、いかなる方法が最善かを理解するための調査を行う予定だ。

 たとえば、母乳を保存する冷蔵庫や職場内の保育所を組織が正式に取り入れることが最も大切なのか。あるいは、同僚が授乳の大変さに耳を傾けて共感してくれるといった社会的サポートがあれば、それで十分なのだろうか。また、企業における女性の地位や立場が、搾乳に対するサポートの利用しやすさに影響を与えるかどうかも調べていきたい。

 何よりも、今後、女性が仕事と授乳のバランスをとれるように職場を最適化するにはどうしたらよいのか。我々の研究が、その方法をより詳しく調査するトレンドの端緒となれば幸いである。


HBR.org原文:When Companies Support Pumping Breastmilk at Work, Everyone Benefits, November 07, 2019.

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アリソン S. ガブリエル(Allison S. Gabriel)
アリゾナ大学エラ・カレッジ・オブ・マネジメント経営組織学部准教授、およびロビンズ・フェロー。

サブリナ D. ヴォルポーネ(Sabrina D. Volpone)
コロラド大学ボルダー校リーズ・スクール・オブ・ビジネス組織リーダーシップ・情報分析学部助教授。

レベッカ L. マガウアン(Rebecca L. MacGowan)
アリゾナ大学エラ・カレッジ・オブ・マネジメント経営組織学部の博士課程在籍者。

マーカス M. バッツ(Marcus M. Butts)
南メソジスト大学コックス・スクール・オブ・ビジネス経営組織学部准教授、およびマリリン・アンド・レオ・コリガン記念講座特任教授。

クリスティーナ M. モラン(Christina M. Moran)
マーシュベリー(MarshBerry)バイス・プレジデント。