●どのような意思決定を下すべきかを確認する

 最初に、日常的な意思決定の種類を整理するとわかりやすい。私はクライアントに、まず必要な意思決定を次の3種類に分けることを助言している。

・企業としての決断:企業のビジョンや方向性を決める、経営幹部を指名する、企業の価値観や文化を定義する、外部の評価を管理する、など。

・戦略手的な決断:企業が行う投資について判断する、顧客層を決める、設備投資額を決める、すべての従業員が従う企業の方針を決める、など。

・業務上の決断:予算、製品の開発と発売、人材管理に関する決定、など。

 企業の規模や成熟度に合わせて分類は変わるだろう。ここで重要なのは、意思決定の種類を整理して、適切な人に権限を与えられるようにすることだ。

 ●誰がどの決断を下すかを決める

 意思決定の権限は、部署や役割の区分がすべての人にわかるように、慎重に配分しなければならない。権限の配分で考慮すべき主な要因は2つある。

 まず、どのようなレベルの意思決定かを明らかにする。企業レベルの場合、組織全体に効力がおよぶ中枢で決断を下すようにする。部門や事業レベルの場合、機能や地理的に分散した決断の仕組みが必要になる。特定の部署や個人レベルの場合、従業員やチームの独自性を考慮した意思決定が必要だ。

 次に、部門間の協力が必要になりそうな意思決定かどうかを見極める。たとえば、イノベーションの協同や新製品の発売に関する決断は、マーケティングや営業、研究開発、製造部門が関与することになる。成長のペースが速い組織は、優秀な人材の獲得と維持のために、部門をまたいだ担当チームが必要かもしれない。チームや部門の枠を超えた意思決定を、できるだけスムーズかつ効率的に行えるようにする。

 ●ガバナンスグループを連携させる

 それぞれの意思決定の権限とリソースを持つグループを決めたら、続いて、効率的な連携を確保する。彼らは単独で意思決定を下すのではなく、多くのグループが互いに信頼しながら、自分たちの決断を下すだろう。

 そのためには、主に2種類の連携が必要だ。まず、事業の一定のリズムを整えるようなペースで会議を開く。短期間で重要度の高いプロジェクトをガバナンスする複数のチームは、より短い間隔で頻繁に集まる必要があるだろう。長期間で重要度の高いプロジェクトの場合、長めの間隔で対応できるだろう。

 たとえば、定例会議の日程を確定して、全社からアクセスできる年間スケジュールとして公表している企業もある。これにより、どの決断をいつ、誰が下すのか、すべての人が把握できる。

 次に、複数のガバナンスグループ間で情報を確実に連携させる。それぞれのグループ内の会議では、どのような情報が入ってくるか、それをもとにどのような決断を下して結論をまとめるか、ある程度わかっている。

 これらのインプットとアウトプットには、意思決定に当たるほかのグループにとっても重要な情報が含まれている。どの情報を、誰が、どのような時間軸で伝えるかを決めておくことによって、組織全体の足並みがそろいやすくなる。

 情報の連携には、グループ間の連絡係を決める、会議の後に情報をざっと更新する、リアルタイムで決定事項や会議の時間を投稿できるオンライン掲示板をつくる、などの方法がある。共有のカレンダーや、透明性を促進するようなテクノロジーを利用してグループ間の連携を図れば、どこで意思決定が下されたか、その理由は何かといった情報を、組織全体がつねに更新しやすくなる。

 ●質のコントロールを組み入れる

 優れたガバナンスシステムは、みずからを監視する仕組みをつくり、その有効性を常に確認する。これには従業員を集めてフィードバックを行う、ガバナンスシステムを毎年評価する機会を設けるなど、さまざまな手法があるが、必ず意思決定プロセスの質を定期的に評価すること。何が機能していて、何が機能していないかを確認するのだ。

 私のあるクライアント企業は、定例会議の最後に10分間のチェックタイムを取り、やろうとしたことができているかを評価して、意思決定プロセスを監視した。それまでに下した意思決定を検証し、それらの選択が従業員にもたらした最大の影響と、その理由が理解されているかどうか、従業員にフィードバックを求めた。さらに、それらの選択に自分が十分に貢献できたと従業員が感じているかどうかも、積極的に確認した。こうして、この企業は意思決定プロセスを実践しながら改善することができた。

 あなたが企業の重役でも、小さなチームの責任者でも、自分が管轄する領域の意思決定プロセスを改善する権限がある。優れたガバナンスシステムを設計して実施することは、けっして簡単ではない。時間と鍛錬とコミットメントが必要だ。しかし、貧弱なガバナンスでパフォーマンスを妨げることのほうが、はるかにコストは高い。

 あなたの組織やチームが問題のある意思決定プロセスに悩んでいるなら、対処療法だけでは足りない。ガバナンスのどの側面に問題の核心があるのかを見極めて、改善するために行動を起こそう。


HRB.org原文:How Systems Support (or Undermine) Good Decision-Making, February 04, 2020.


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