危機や深刻な問題のさなかに透明性を確保することを選ぶためには、著名な経営学者ピーター・センゲが、「ワース・ビフォア・ベター(物事は改善に向かう前に悪化する)」効果と呼ぶものに備える必要がある。
これは複雑なシステムには昔から見られるパターンだ。本気で改善に取り組む組織はまず、いま目にしている問題を率直に指摘するよう人々を促す必要がある。それをしなければ、成功は幻想に終わるだろう。何がうまくいって「いない」のかというデータがなければ、何をどう是正するか知ることはできないのだ。データがなければ、進展はありえない。
人々に問題点を率直に話してもらうようにしていれば、実際に悪いニュース(犯罪であれ、医療過誤であれ、パンデミックにおける新規感染者であれ)が入ってきたとき、あなたはすでに成功に至る最初のハードルを超えていることになる。
正確な情報があれば、新しい問題が浮上したとき、斬新な解決策を考案することに人々の注意力とスキルを集中させることができる。リーダーも専門家も「万事順調だ」という根拠のない自信でその場をやり過ごすのではなく、本当に必要なことに取り組める。
しかし、たとえ初期に正確な情報を得ることに成功したとしても、落胆するような状況は起こりえる。日々変わっていく数字が、どう考えても間違った方向に進んでいるように感じられるのだ。
私たちの誰もが、犯罪が減ってほしいしと思っているし、患者の症状が安定してほしいし、感染病は一掃されてほしいと思っている。それも昨日のうちに! だが、希望的観測は戦略ではない。それを現実にするためには、透明性の確保が不可欠である。
ただし透明性は、人々が心理的安全性を感じられる環境がなければ確保できない。つまり、ネガティブな待遇を受けると心配することなく、人々が疑問や懸念、アイデアを提起できる雰囲気をつくることが必要だ。
思い切って声を上げたら孤立してしまうとわかっていたら、誰が声を上げるだろう。これは危機のときの過熱した雰囲気の中では、特に言えることだ。心理的安全性を感じられる環境がなければ、状況が深刻化するほど、声を上げるリスクは高く感じられるようになる。
筆者の研究チームは、過去20年にわたり心理的安全性を研究した結果、人々が思い切って声を上げることを明示的に高く評価し、その方法を整備してきた組織ほど、あらゆるタイプのチャレンジに効果的に対処できるという、確固たる証拠を積み上げてきた。筆者が2019年の著書The Fearless Organization(未訳)で紹介したいくつかのケーススタディは、問題がきちんと提示されると学習と進歩が始まること、そして問題を隠蔽すると大惨事になることについて、説得力をもって教えてくれる。
すべてを透明にするには、勇気が必要だ。同時に、すべての人にとって重要な目標を達成するうえで、その選択が正しいことを理解するためには、知恵が必要である。
そこで決定的に重要なのは、人に自分の知っていることや、目にしていること、そして疑問に思っていることを正直に話してもらうためにはまず、トップがそれを実践する必要があるということだ。誰にでも目に見える形で。
HBR.org原文:Don't Hide Bad News in Times of Crisis, March 06, 2020.
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