この調査では、カナダ全土の公立大学(カナダではほとんどすべての大学が公立)の教職員給与に関する管理データを調べた。これらのデータを使用して、教授の給与が賃金透明化法によって開示されたかどうかを、非常に細かいレベル(大学、学部、教授のランクレベル)まで判断できる。

 我々の目的と照らして幸いなことに、法律の影響は、改正当時、学部の教員給与が基準額を上回っていたか下回っていたかによって異なった。これにより、同じ州の「未対応」の学部を比較対象として、「対応済み」の学部への法律の影響を調査し、法律が施行されなかったとしたらどうなっていたかを予測することができる。

 大学教員が我々の研究にとって好都合な集団である理由は、いくつかある。

 第1に、助教授、准教授、教授という伝統的な階級区分と昇格制度により、給与の比較が明快である。

 第2に、教授の活動は、実施した講義、研究、および管理業務の観点から、比較的簡単に把握することができる。また、カナダの教員給与は通常12ヵ月ベースで支払われる(対する米国では9ヵ月ベースが一般的)。したがって、教授の給与がわかれば、それを生産性とランクに関連付けることは比較的容易であり、個人間の比較が比較的容易なのである。

 我々の分析は、賃金透明化法が実際に、男女間賃金格差を縮小したことを示した。1996年に透明化法が初めて可決されたとき、格差は6~7%だった。その後、数年間で2%ポイント、約30%縮小した。また、賃金透明化法が施行されてから最初の数年間は、女性の教職員の給与がわずかに増加していることもわかった。

 我々の分析はまた、教職員組合が組織されている大学で、給与格差の縮小が最も大きいことを示していた。なぜそうなのかははっきりとはわからないが、組合組織のある職場では、賃金透明化法によって開示された情報に基づいて行動するための、手順や制度が整備されている可能性が考えられる。

 もちろん、単に従業員の給与を開示するだけでは十分ではなく、男女格差を縮めるには、その情報に基づいて行動を起こす必要がある。リリー・レッドベターが、正義を追求するために訴訟を起こさなければならなかったのと同じである。これらの大学に整備されていたインフラは、上級教員や大学管理者の大多数を男性が占めていた時代において、特に女性に有利に働いた可能性がある。

 我々が調査した大学のうちのいくつかは、男女教員に支払われる給与の制度的見直しを、外部を通して実施している。これにより、女性教員の給与が大学全体で上方修正されている。こうした制度的対応を賃金透明化法に直接関連づけることはできないが、我々が知る限り、こうした見直しはすべて、法律の施行後に各州の大学で行われている。

 以上をまとめると、我々の調査の結果、賃金透明化の大規模な導入には、賃金の男女格差を縮小する可能性があることがわかる。今回の分析対象は、公立大学の教員という比較的高給の労働者に限定されているが、透明化法のより広範な導入は、ジェンダー平等を支持する社会規範に広く変化をもたらし、(給与を開示する必要のない組織においても)間接的に賃金格差の改善に影響を与える可能性があると、我々は考えている。


HBR.org原文:Can Transparency Laws Fix the Gender Wage Gap? February 26, 2020.


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