意思決定のアプローチを変える

 感染拡大を止めるために何が必要かは、まだはっきりわからない点が多い。ウイルスの性質に関していくつかの重要なことが明らかになっておらず、いまも論争が続いている。この状況は、当分変わりそうにない。

 しかも、何らかの措置の実行(というより、多くの場合は不実行)により、どのような結果が生じるか(具体的に言えば、感染者と死亡者に関するデータがどうなるか)が見えてくるまでには、かなりの時間が掛かる。そう考えると、どのような対策に効果があるかが明確になるのは、数ヵ月後、ことによると数年後になると覚悟したほうがよい。

 それでも、イタリアの経験を参考にすると、この危機に関してはっきり言えることが2つありそうだ。

 第1は、新型コロナウイルスの感染は指数関数的に進むため、時間を無駄にできないということ。イタリアの市民保護局(米国の連邦緊急事態管理局〔FEMA〕のように、大規模災害などの緊急事態への対応を担う政府機関)のトップが言うように、「ウイルスの動きは官僚機構より速い」のだ。

 第2は、新型コロナウイルスへの対応を成功させるためには、戦時のような動員体制が求められるということ。人的資源と経済的資源をすべてつぎ込むことに加えて、医療システム内(検査機関、病院、開業医など)の調整、官民のさまざまな組織や社会全体での協調を徹底させなくてはならない。

 迅速に行動する必要があり、しかも大規模な動員も求められる状況では、平時とはまるで異なる意思決定アプローチが必要となる。新型コロナウイルスとの戦いに勝つためには、政策当局者が一貫した対策を採用し、経験から学習する姿勢を持たなくてはならない。成功した試みを素早く大々的に導入する一方、うまくいかなかった取り組みはすぐに打ち切るべきだ。

 もちろん、これは簡単なことではない。いまのような途方もない危機の最中には、なおさら難しいだろう。しかし、この戦いに敗れれば、失うものはあまりに大きい。それは、どうしてもやり遂げる必要があることなのだ。


HBR.org原文:Lessons from Italy's Response to Coronavirus, March 27, 2020.


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