(1)視野が狭まる
人間の脳は、脅威にさらされると集中力が高まるようにできている。これは、進化のプロセスを通じて形づくられた、自己防衛メカニズムと言える。問題は、その結果として、目の前のこと以外は視野に入りにくくなることだ。
リーダーはこの落とし穴を避けるために、意識的に一歩後ろに下がり、精神の視野を広げなくてはならない。私たちは、このようなリーダーシップのあり方を「メタ・リーダーシップ」と呼んでいる。
重要なのは、自分たちの前にある試練と機会の全体を見ることだ。適切な対象に目を向けてメタ・リーダーシップを実践すれば、適切なマネジメントが促される。
米国沿岸警備隊のピーター・ネフェンジャー退役少将は、2010年のメキシコ湾原油流出事故が起きたとき、国家的事故対応副司令官を務めた。
当時、一緒に仕事をしていた私たちは、ネフェンジャーの考えを「状況接続マップ」、つまり原油流出事故に関連する諸状況を視覚的に要約した図にまとめた。そこには、法律上の問題、政治的な影響、事業継続に関する懸念、打撃を受けた地域コミュニティの経済的・社会的な状況、自然環境への影響、対応に当たる政府機関間の調整といった要素が盛り込まれた。
ネフェンジャーはそのような広い視野で考えた結果、自分が果たすべき最も重要な役割は、原油流出事故そのものへの対応をマネジメントすることよりも、リーダーシップを発揮して、連邦政府、州政府、地方自治体の人たちが政治的な問題を気にして消耗せずに済むような環境をつくることだと気づいた。
ネフェンジャーの尽力により、現場のスタッフの裁量が広がり、その人たちの行動にお墨つきが与えられた。