(2)マネジメントへの誘惑に駆られる

 1つの組織や業界の経験しかないリーダーは、危機をマネジメントする役割を担うことをスリリングだと感じるかもしれない。しかし、時間が経つうちに、あっさり普段のコンフォートゾーン(快適な領域)の行動パターンに戻ってしまう危険がある。

 なるほど、意思決定を行い、何らかの行動を取ると、アドレナリンが大量に噴き出す。目に見える価値を新たに生み出しているという感覚も味わえる。

 だが、これは大量の糖分を摂取したあとの一時的な興奮状態のようなものだ。その興奮状態はすぐに冷めてしまう。

 リーダーシップを振るって危機を乗り切ろうと思うなら、目の前のことをマネジメントするのではなく、長い目で物事を見る必要がある。1週間後、1ヵ月後、さらには1年後に何が起きるかを予測し、来るべき変化に備えなくてはならない。

 メンバーが難しい決断を下せると信頼して、権限を委譲すべきだ。みずからの経験に基づいてメンバーに適切な支援を行い、決断と行動の指針を示す一方で、メンバーの仕事を奪いたいという誘惑は払いのけよう。

 エネルギー産業や航空産業など、大きなリスクと隣り合わせの業種の組織は、いつ危機が発生しても不思議でないと理解していて、危機をマネジメントするための強力なHSSE(健康、安全、セキュリティ、環境)部門を擁している。

 会社の上級幹部たちがHSSE部門の人たちに強い信頼を持っていれば、危機へのマネジメントはその人たちに任せて、自分は会社を危機前より強くすることに努力を集中させられる。

 しかし、そうした信頼を持っていなければ、リーダーは現場レベルの対応をマイクロマネジメントしようとし、現場マネジャーの活動のリズムを乱し、好ましい結果を生み出せないという本末転倒の状況を生んでしまう。