(4)「人間」という要素を軽んじる
当たり前のことに思えるかもしれないが、ある状況が危機になるのは、人々に悪影響が及ぶからだ。ところがリーダーは、株価、収益、コストといった、数値で評価できる基準にばかり目が向きやすい。
こうした指標も確かに重要だが、数字にあらわれる成果を生み出すのは、協働を通じた人々の努力だ。組織とはそもそも、一人ではできないことを、みんなで一緒に成し遂げるために存在するものなのである。
リーダーに求められるのは、チームの結束力を高め、個々のメンバーをチームの大切な構成員と位置づけ、同じ目標に向けて全員が足並みを揃えて行動できる環境をつくることだ。
そのための最初の一歩は、明確なミッション(使命)をメンバーに共有させて、仕事にパーパス(意義)を注入すること。そのうえで、インクルーシブ(包摂的)なリーダーシップを通じて、ミッションを具体化し、一人ひとりがミッションにどのように貢献できるかを理解できるようにすべきだ。
また、メンバーの貢献がしっかり評価される仕組みをつくることも忘れてはならない。こうしたことを行えば、どんなに些細な仕事も深い意義を持つようになる。
ジェームズ・ジミー・ダンは、投資銀行サンドラー・オニール(現パイパー・サンドラー)の3人のマネージングパートナーの一人だった。
2001年9月11日の同時多発テロでニューヨークの世界貿易センタービルが崩壊したとき、同社のオフィスはこのビルの中にあった。このテロ事件で、同社は従業員の40%を失った。その中には、ほかの2人のマネージングパートナーも含まれていた。
ダンはテロに屈してはならないという思いのもと、会社を存続させることをみずからの個人的なミッションとして位置づけたと言う。
そのミッションを構成する2つの重要な要素について、ダンはみずからの両手に目をやりながら語った。片方の手の上にあるのは、ビジネス。もう片方の手の上にあるのは、従業員と家族。
テロで命を奪われた人の葬儀に参列したり、給与や手当の支払いを継続したりするなど、従業員と家族を大切にするためにリーダーシップを発揮すればするほど、ビジネスの面はおのずとうまく回り始めたように思えると、ダンは言う。
これは、メンバー全体がモチベーションを失わず、みんなの成功のために努力し続ける環境をつくったことの賜物だった。
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リーダーシップとマネジメントは、平面上の2つの円のようなものと考えればよい。
新たな危機が発生した直後は、2つの円がほぼ重なり合い、その後、時間が経つにつれて2つの円が重ならない部分が増えていく。ただし、現在と未来は互いに影響を及ぼし合うので、重なる部分がまったくなくなるということはない。
危機の際に目覚ましい成果を上げる企業幹部は、この2つの円のうち、現在の物事のマネジメントをほかの誰かに任せ、みずからは危機後に明るい未来をもたらすためのリーダーシップに集中するのだ。
HBR.org原文:Are You Leading Through the Crisis… or Managing the Response? March 25, 2020.
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