Illustration by Keith Negley

新型コロナウイルス感染症によって、リーダーを取り巻く環境は一変した。将来をある程度予測できる中では、完璧の追求が成功をもたらす。だが、短期間で状況が一変するいま、正しさではなくアジリティ(敏捷性)が求められている。本稿では、その実践を妨げる3つの課題と、それぞれの解決策を紹介する。


 ほぼ一夜にして、リーダーにとって状況は一変した。ほんの少し前、新型コロナウイルスが流行する前は、私たちの世界では多くのことが明白かつ予測可能で、比較的安定していると思われ、成功することは完璧を追求することのようだった。

 しかし、状況が日ごと(あるいは時間単位で)変化し、この先何が待ち受けているのか、最善の行動は何かを確実に知る術がない危機的状況では、完璧を求める時間的余裕はない。

 完璧主義は突然、不都合なものになった。

 世界保健機関(WHO)の緊急事態対応部門を統括するマイケル・ライアン博士は、エボラ出血熱や現在の新型コロナウイルスとの闘いを含め、世界的な健康への脅威に最前線で対応してきた。ライアン博士は、危機を乗り切ることについて、こう述べている。「行動する前に正しさを求めれば、敗れる。スピードは完璧に勝る。危機管理に関しては、完璧は善の敵だ」

 不確実性が高い中で、あらゆる業界のリーダーは戦略とサプライチェーンを調整し、経営のルールを改め、時には物事を取り繕うこともある。こうしたリーダーシップには、思考の敏捷性が求められる。

 だが、問題がある。私たちの思考は、生まれながらにアジリティ(敏捷性)が身についているわけではないのだ。

 大昔から、私たちの思考は進化によって散漫になり、危険な状況に絶えず注意を向けることで我々は生き延びてきた。また共感することで、集団化し、コミュニティを構築してきた。思考はさらに、自己保存の最も基本的なメカニズムである、エゴも伴う。

 敏捷な思考を身につけるには、生来備わっている以下の3つをうまくコントロールしなければならない。それぞれの課題を少し深く掘り下げ、思考を発展することと、よりよい結果を導く危機管理について指南したい。