これも勇気が必要だ。なぜならスピードを落とすと、これまでは素通りしていた多くの感情が押し寄せてくるからだ。

 一般に、私たちは感情に惑わされないように、わざと忙しく動き回ろうとする。実際、筆者はここ数週間、やたらと活動的な人を見て驚くことが少なくなかった。彼らは計画を練り、ビジネスの戦略変更を考え、意見を表明し、ネットワーキングに励み、方向性を決め、ズームをコールしてスケジュールを埋めていた。

 筆者もこうしたズーム・コールのいくつかに出席したことがある。参加者が自分の戦略変更をあれこれ発表するなか、誰かが「君は?」と聞いた。筆者の答えは、「わからない」だった。

 どうすればいいかわからないし、何かをする意欲も起きない。だから怖くなる。みんなに取り残されたらどうしよう、と。

 だが、そこで気がついた。筆者が行動を起こす理由の一つは、みんなに置いてきぼりにされたくないからだと。それは行動を起こす正しい理由ではない。

 だから勇気を出して、行動しないことに決めた。すると文字通り、みんなに取り残された。そして、自分と向き合うことになった。

 そこから、苦しいながらも気がついた。もしかすると、この経験のない時代の意義は、自分について学ぶことにあるのかもしれない。

 さらに重要なことに、筆者は自分に「寛容になる」こと、怖くて不安でも自分らしさを持ち続けること学びつつある。自分の恐怖や不安を受け止められることがわかると、そこから逃げ回る必要もなくなる。

 その気づきは、新たな自信とパワー、そして大きな解放感をもたらしてくれる。そして恐怖や不安からではなく、目的と絆と強さと切望と愛から、行動できるようになる。

 そう、このパンデミックは、私たちにスローダウンし、耳を澄ませるように呼びかけているかもしれない。なんでもいいから、とにかく行動しなければという衝動を抑えて立ち止まったら、何が起こるのか。それは「いま」への集中だ。すると、なんと多くのことが見えてくるだろう。

 ケラーの場合、スローダウンして自分の感情を受け止められるようになると、気分が落ち込むどころか、楽観的になった。「自己発見の旅と、徹底的な自分の受け入れ」と彼は言った。「魂との調和ができるようになった」

 だから、みなさんにも呼びかけたい。いまこそすべてを少しストップして、深呼吸をして、好奇心を持つことを。そして、自分の感情に耳を傾けることを。


HBR.org原文:Empathy Starts with Curiosity, April 27, 2020.


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