医学の進歩も、実現するかしないかの二つに一つであるかのように描かれることが多い。しかし、現実はもっと複雑だ。医療行為による臨床上の成果が大きく改善するのは、いくつもの小幅な改善の積み重ねの結果である場合が多い。

 ワクチンが感染症対策で大きな成果を上げるには、必ずしも100%の効果がなくてもよい(たとえば、お馴染みのインフルエンザ・ワクチンは、感染リスクを100%なくせるわけではなく、40~60%引き下げるだけだ)。

 同じことは、治療薬についても言える。

 すべての患者に対して100%有効な薬品など、まずありえない。多くの薬品は、患者の状況をわずかに改善するにとどまる。それでも、大勢の患者がいる病気の場合、そのようなわずかな改善であったとしても、その薬品は社会全体での死者の数を大幅に減らせる。

 もう一つ頭に入れておくべきことがある。臨床上の成果の改善は、テクノロジーや薬品とは関係なく実現する場合が多いという点だ。成果の改善をもたらすのは、しばしば臨床での患者管理手法の改善なのだ。

 挿管を行う最善のタイミングはいつか、患者をうつ伏せに寝かせるのと仰向けに寝かせるのとどちらがよいかといった方法論が確立されても、メディアで大きく取り上げられることはあまりない。しかし、そのような進歩は、患者の状況を改善させる可能性を持っている。

 つまり、画期的な新薬やテクノロジーが登場しないと、局面を一変させられないわけではない。臨床の現場でどのようなやり方が有効で、どのようなやり方がうまくいかないかを徹底して学習する姿勢を持てばよい。

 経験から素早く学ぶことが、きわめて重要なのだ。