「多数の小さな対策」を実践するうえで大きな課題になるのは、社会の幅広い層の人たちがそうした取り組みに参加し、指針通りに行動できるかどうか、そして、官民の組織が積極的に関われるかどうかだ。

 たとえば、人口の大多数が行動変容を受け入れる必要がある。

 公の場で常にマスクを着用したり、徹底した手洗いを励行したり、体調が悪いときは外出を控えたりしなくてはならない。あるいは、公衆衛生機関の接触者追跡担当者から電話連絡があった場合に必ず電話に出るようにしたり、自宅隔離の指示を守ったり、スマートフォンアプリを利用してホットスポットを避けたりしなくてはならない。

 企業も、新しい勤務体系や働き方、社員と顧客を守るための新しい方法を取り入れることが求められる。学校は、密集を避けるために、スケジュールや行事を見直さなくてはならない。政府は、公共スペースの徹底した清掃や、検査と接触者追跡の体制強化への投資を増やす必要がある。

「多数の小さな対策」を追求するアプローチが持つ大きな利点は、どのようなやり方が有効で、どのようなやり方がうまくいかないかという情報が集まりやすく、対策が常に改善され続ける点だ。

 ただし、この恩恵に浴するためには、質の高い情報を収集する必要がある。そして、それ以上に重要なのは、リーダーが新しい情報に基づいて行動できることと、有効な対策の実践を社会に受け入れさせるための説得力を持っていることだ。

 いまは、誰もが危機を乗り越えるための新しい行動を取ることができる。というより、そのような行動を取るべきなのである。

 本稿で紹介したような対策の多くは、これでは不十分だと多くの専門家から批判されてきた。たしかに、いずれの対策も、単独で新型コロナウイルス危機を大幅に和らげる力はない。しかし、ささやかな対策を積み重ねれば、一般に思われているよりも早期に、真の前進が実現するかもしれない。

 どこかからヒーローが颯爽とあらわれて、私たちを救ってくれる奇跡の瞬間をひたすら待つのか。それとも、一人ひとりがすぐにできることをすべて実行するのか。

 いま私たちが経験している現実の危機の中で、このどちらのストーリーの登場人物になりたいか、私の結論ははっきりしている。


HBR.org原文:We Shouldn't Wait for a Breakthrough in the Covid-19 Pandemic, May 06, 2020.


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