●新たな「真実の瞬間」を見つける

 グーグルは2011年、「ゼロ・モーメント・オブ・トゥルース(Zero Moment of Truth)」という造語を生み出した。これは、顧客が買いたい製品・サービスについて(店頭に行く前に)リサーチをする最初のステップを指す(モーメント・オブ・トゥルース〔真実の瞬間〕とは、消費者が購入にまつわる意向やブランドへのイメージを形成する瞬間)。

 今日では、デジタル経路で購入に至るまでには無数の細かい瞬間があり、最も決定的な瞬間はマーケターの想定通りとは限らない。

 例として、さまざまなスマート家電を製造しオンラインで販売する会社を考えてみよう。顧客は「ホームセキュリティ・システム」と検索し、セキュリティカメラのページにアクセスし、その後サイトをあちこち見て回り、最終的にスマートロックを買うかもしれない。

 ここでの重要な真実の瞬間は、購入したのとは別の製品のページである。このページによってブランドに対する顧客の印象が形成され、次の(購入という)アクションが促されたのだ。

 購入プロセスにおいて顧客の購入判断に――ひいては売上げに――影響を及ぼす数々の瞬間は、分析、A/Bテスト、最適化の対象にすべきである。

 ●アナリティクスを収益確保に結びつける

 マーケティング・アナリティクスによって顧客とのやり取りを解明する際、測定が容易なものだけでなく、収益に貢献するやり取りをこそ対象にしなければならない。

 電話での会話は、十分に活用されていないがインサイトの源泉だ。特に金融、ヘルスケア、通信の分野では有益となる(これらの製品・サービスは複雑で、不安を伴いやすく、高価格という共通点がある)。

 筆者らのクライアントの一社であるディッシュ・ネットワークは、テレビ放送のパッケージを販売しているが、業務の相当部分が電話で行われている。同社ではオンラインでのやり取りよりも、電話のほうが成約率が高い。新規加入者の半分は、パッケージを購入する前に担当者と電話で話している。

 マーケティングチームは会話分析を最優先し、コールセンターと広告連動型検索のデータを結びつけることで、より高価値の見込み客に的を絞っている。この取り組みの結果、ディッシュは成約率を60%向上させた。

 メールの開封率やウェブサイト訪問数を測定して最適化するほうが容易ではあるが、マーケターは売上げをもたらしている会話についてインサイトを得る必要がある。すなわち電話での会話を、他のあらゆるデジタルのアクティビティと同様に分析すべきなのだ。

 今日の不透明な経済状況と公衆衛生環境においては、事実に根差し、かつ収益につながる意思決定を行うことが、かつてなく重要である。マーケターにとってデータとアナリティクスの効果的な活用は、顧客の変わりゆく現実から離れずに、彼らの真実の瞬間に焦点を当て続けるうえで有効なのだ。


HBR.org原文:Is Your Marketing Strategy Based on the Right Data? May 14, 2020.


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