もっとも、いまさら驚くまでもない。筆者らはアジャイル(敏捷な)マネジメントの原則と実践について多くの企業を調査し、助言を行う中で、企業が官僚主義の制約を捨ててアジャイルな手法を採用したとき、いかに早くイノベーションを起こすことができるかを繰り返し見てきた。

 今日では多くの企業が、現場でアジャイルを見出しているようだ。

 経営陣は筆者らに、自社が生んだイノベーションは戦略的な計画の一部ではなかったと言う。報酬制度にインセンティブが組み込まれていたわけではない。上級管理職や計画立案部門が主導したのでもなく、通常のステージゲート法のプロセスを経たのでもない。

 よくあるパターンは、少人数のグループが緊急のニーズに気づき、優先順位の低い活動を中断して、典型的な官僚的な手続きを無視し、普通の労働者が「冒険野郎マクガイバー」に変身して自分自身も上司も驚かせる、というものだ。まさに、アジャイルではないか。

 今日のアジリティのもう一つの特徴は、多くの企業で新陳代謝が加速していることだ。

 ある大手小売業者のシニア・エグゼクティブは、部門をまたいだ関係者と毎日30分のミーティングを行い、その日の課題に取り組んでいる。彼のチームは安全性など重要な原則を定めるが、運営上の決定は現場の管理者に委ねている。

「以前は月に5つ大きな決断を下していたが、いまでは1日に5つの決断をする日もある」と、このシニア・エグゼクティブは言う。「これらの決断の質が大きく低下したとは思わない」

 ただし、こうした即席のアジリティは脆いものだ。イノベーションは体系的というより散発的に起こる。そして緊急性が薄れると、次の危機が発生するまでは、従来の指揮統制型のイノベーションに戻りがちだ。次にアジャイルなアプローチが必要になったときは、ゼロから始めなければならない。

 では、危機が去った後もアジリティを維持するために、企業はどうすればいいだろうか。そのポイントを見ていこう。