●アジャイルな手法でアジャイルなシステムを構築する

 ビジネスシステムは長期的なパフォーマンスに対し、個人の活動よりも大きな影響を与える。これはアスリートや企業経営者が、組織が変わるとパフォーマンスが大きく変わる理由の一つでもある。

 そこで、アジャイルなイノベーションが成功しやすいタイミングを利用して、ビジネスシステム自体を、よりアジャイルにしよう。イノベーションを生むためのアジャイルなチームを増やすのだ。

 まず、アジャイルの原則を組織全体に浸透させる。官僚的であり続けることが必要な部分にも、それを広めよう。ここで重要なのは、アジャイルな手法を使ってアジャイルなシステムを構築することだ。実験、学習、適応を通じてシステムを変えることに、人々を巻き込む。

 ほかの企業の真似はしないこと。まずうまくいかないし、アジリティのすべての要素を取り入れて自分たちに合わせながら調和させるために必要なスキルを、組織のメンバーが身につけることができない。オペレーティングの新しいモデルを作成して、それに慣れるためには、時間が必要だ。

 ●イノベーションのスピードを上げる

 危機の最中は、組織のイノベーションが加速することに経営陣は驚嘆するものだ。ただし、アジャイルな組織は、普段からスピードを重視する。一般的な目安の一つは、問題や機会を認識してから革新的な解決策を提供するまでにかかる時間だ。

 この時間に注目すると、意外な洞察を得られるときもある。アジャイルなチームがイノベーションを発揮するまでにかかる時間は、2つの要素によって決まる。すなわち、イノベーションに取り組むために必要な時間と、周囲を待つ時間だ。

 待機時間には、戦略立案の日程や承認プロセス、予算編成と資金調達サイクルといった事業プロセスの遅延や、ほかにも数多くの要因が含まれる。大半のチームは、自分たちが取り組んでいる時間は全体の15~20%で、残りの時間は待機している。この待機時間を短縮すれば、チームの作業時間を短縮する効果が5倍になる。

 待機時間を短縮する方法の一つは、大規模な長いプログラムを、迅速なフィードバックを返す小さなバッチに分割することだ。より小規模なバッチなら、複雑なシステムで働く人も、変化や新たなニーズに対応して迅速に行動を開始したり、中断したり、あるいは方向転換がしやすくなる。

 画期的なイノベーションは、官僚主義を脅かすような5年に一度のギャンブルである必要はない。短期的な試みを定期的に検証して、導入することもできる。

 同様に、煩雑な計画立案と資金調達を1年ごとに行う必要はない。そのようなサイクルはイノベーションの始動を遅らせ、迷走している取り組みの中止を先延ばしにする。融通のきかない長期的な計画立案と予算編成のプロセスを、たとえば4半期ごとに分割することによって、待機時間を最小限に抑え、作業フローの効率性を高めることができる。

 ●標準的なオペレーションとイノベーションのバランスを見直す

 動的な環境で成功を維持するために、企業は2つの重要な活動のバランスを取らなければならない。事業を確実かつ効率的に運営しつつ、事業を迅速かつ効果的に変化させるのだ。

 イノベーションを軽視しすぎると、適応力に欠ける静的な企業になりかねない。一方で、オペレーションを軽視しすぎると、質の低下と高コストを招き、顧客とビジネスをリスクにさらすだろう。

 今日では多くの大企業が、あまりに官僚主義に偏っており、イノベーションが枯渇している。危機はこのアンバランスを痛烈にさらけ出すが、それもしばらくのあいだだけだ。そこで重要なのは、緊急に対する意識を維持し、次の危機を予測して、オペレーションと同じくらいイノベーションを重視するシステムをつくることだ。

 現在のパンデミックは、多くのビジネスリーダーが経験したことのある中で最悪の大惨事であることは間違いないが、特異なものではけっしてない。この20年、私たちはブラックスワン的な衝撃を次々と目の当たりにしてきた。テロ攻撃、残虐な地域紛争、致死的な疾病のアウトブレイク、ハリケーンや山火事など未曾有の気象現象。

 そこまでの危機ではなくても、データ漏洩や貿易戦争、デジタルによる市場破壊など、「普通の」ビジネス災害は日常的に起きている。それは今後も変わらない──企業は予期せぬ難題や機会に次々と直面し、通常のビジネスではもはや十分ではない。

 アジャイルなビジネスシステムは、企業が不確実な時代を生き抜くために必要なイノベーションを生み出す手助けとなる。


HBR.org原文:Develop Agility That Outlasts the Pandemic, May 15, 2020.


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