変化のとき
悪い職場の拡大は、長い間コストがかかる(時に致命的な)問題をはらんできたが、今回のパンデミックはそれに対処する絶好の機会をもたらす。なぜか。
多くの現場の労働者は感染の危険を冒しながらも働き続け、経済の有用な部分の多くを維持させてきたため、しばらくは彼らに注目が集まる。同時に、食肉加工工場やホールフーズ、アマゾンでのストライキが報じられ、顧客は広範囲に及ぶ劣悪な労働環境を認識することとなった。
顧客はいまや、労働者を不当に扱う企業から購入することは容認できないと思うかもしれない。同程度の価格でよい職場を提供している競合他社があれば、なおさらだ。
大打撃を受けた多くの企業にとっては、変化をしなければ、悪い職場が致命傷になることが証明されつつある。そうした企業は、組織のために闘い、すべての顧客に最善のサービスを提供し、すべての製品、サービス、プロセスを可能な限り改善し、顧客を引き付けるための新しい方法を見出すために懸命に働く現場スタッフが必要になる。また、多くのことが予測できない形で変化するため、企業には適応力も求められる。
予測できることの一つは、経済的に苦境に立たされている顧客は、価値あるものをかつてなく求めるようになるということだ。それにより、よい職場の構築に着手した企業は、そうでない企業に比べて競争優位を築く。
2008年の金融危機後、スペイン最大の食料品チェーンであり、よい職場のモデルとも言えるメルカドーナは、経済的に苦境に立たされている顧客のために価格を10%引き下げながらも、利益を確保し、大きな市場シェアを獲得した。それを可能にしたのは、エンパワーされた現場の従業員の努力や貢献だった。
パンデミックは、米国の小売業が見舞われている混乱を加速させる可能性がある。米国は、国民一人当たりの小売面積が24.5平方フィート(約2.3平方メートル)もある。カナダは16.4平方フィート(約1.5平方メートル)、欧州は4.5平方フィート(約0.4平方メートル)だ。ほぼ間違いなく過剰で、顧客にまた行きたいと思わせることができない、ありきたりの店は生き残れない。
パンデミックはまた、新しいテクノロジーの採用も加速させる可能性がある。新しいテクノロジーの採用、拡大、活用は、人員削減策と見られがちだが、それには有能でやる気のある従業員が(人数は少なくても)必要だ。
ただ、それに代わるものがある。成功することが証明されている、よい職場だ。
パンデミックのはるか以前から、コストコやクイックトリップなど、現場の従業員一人ひとりの重要性を認識して、それに見合う待遇と賃金を提供し、成功している企業はあった。競争が激しく低価格の小売業界でも成功した企業は、よい職場にすることで勝利を収めている。
よい職場には財務的にも有利な点がある。よい職場を提供することで、従業員の離職率やオペレーションのミス、無駄な時間を減らすことができ、コスト削減につながる。サービスが向上し、売上げが短期的にも、顧客のロイヤルティによって長期的にも増加する。こうした改善すべてが、よりよい賃金や福利厚生、研修、勤務日程への大規模な投資を埋め合わせる以上の価値を生む。
マサチューセッツ工科大学スローンスクール・オブ・マネジメントのハジール・ラフマニダッド准教授と筆者は最近の論文で、平均以上の賃金は、低価格のサービス業でも利益を最大化するアプローチになりうることを示している。さらに、コストコ、メルカドーナ、クイックトリップ、H-E-Bのような企業が実証しているように、よい職場は企業の再起力と適応力を高める。これらの能力は、パンデミックのあいだもその後も、大いに求められるだろう。