いまだから、できる

 しかし、企業がすでに財政的に不安定な状況にあり、需要が当面は元に戻らないとき、よい職場を提供すること、すなわち労働費用を相当増やし、働き方を改善することは可能なのか。そう、可能である。

 低需要の期間が長引けば、実際には低リスクでオペレーションの転換がしやすくなる。低需要の期間は、業績に対する圧力も低下する。

 たとえばアマゾンは、次期4半期は赤字になる可能性があると発表した。こうした期間に経営陣は、次期4半期やさらに次の4半期では成果の現れない転換を、説得力を持って実行できるかもしれない。

 変革の取り組みの大半がそうであるように、よい職場を導入し、その恩恵を享受するには、確かに時間がかかる。しかし、会員制量販店サムズクラブの最近の取り組みからわかるように、賢明な方法で順序立てて変化を実施することで、企業は価格を上げたり利益を減らしたりすることなく、賃金への大幅な投資ができる。

 サムズクラブは、何千人もの従業員の賃金を時給15ドル前後から22ドルまで引き上げた。同時に、商品の種類を25%も減らし、従業員の生産性を高め、顧客の満足度を高めるために業務プロセスを改め、オペレーションを簡素化した。こうして、利益率が厳しい小売業でも賃金へのより大きな投資が可能になった。

 地方のペット小売業のマッドベイは、利益率2%未満ながら、従業員の賃金を30%引き上げ、福利厚生を大幅に改善した。

 企業や組織に対する信頼が著しく低下し、幹部と労働者の給与格差に対する批判が高まっているいまこそ、より多くのリーダーが勇気と責任を持ってよい職場を実現し、事業を立て直すときだ。リーダーたちは、彼らのために働いている素晴らしい人材をすでに持っているのだから。


HBR.org原文:Rebuilding the Economy Around Good Jobs, May 22, 2020.


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