この記事を読むことは、よいスタートだ。心の働き方を理解してはじめて、心と付き合えるようになる。

 あなたが「不安―気晴らし」という習慣のループに陥っているなら、自分が望まない習慣をつくり出し、それを継続させる「引き金―行動―報酬」というプロセスを明らかにする必要がある。引き金(不安)、気晴らしの行動(食ベる、酒を飲む、テレビを見る)、報酬(引き金の気晴らしをすることで気分がよくなる)を認識するのだ。

 自分の典型的な「不安―気晴らし」のループを特定したら、それが生じたときに、その正体を明らかにする。特定の状況で生じるのか、それとも特定の時間帯だろうか。

 次に、その習慣のループがどれだけの報酬をもたらすかを考えよう。脳は報酬のレベルに基づき行動を選択する。無理に食べないとか、ソーシャルメディアをチェックしないようにするのではなく、自分の行動が招く精神的・身体的な結果に焦点を当てよう。

 私は患者に、次のシンプルな問いを自問してもらっている。「これから得られるものは何か」である。

 これは知力を要する質問ではなく、経験に基づいて答えるものだ。その短時間の気晴らしで、どう感じるか。どれくらい続けるのか。タスクを完了できずに不安が増すなど、裏目に出る結果をもたらす影響はあるか。

 注意すべきは、すべての気晴らしが悪いわけではないということだ。に問題となるのは、求める報酬が得られなくなったときである。

 たとえば、不安を感じているとき、チョコレートを少し食べるのと、たくさん食べるのとではどうか。その日に見る番組を2話にするのと、5話にするのとではどうか。

 注意してみると、報酬のレベルは典型的な逆U字型のカーブを描くことがわかるはずだ。気晴らしの楽しさは頭打ちになり、そこから先は下降し、落ち着きがなくなって不安な状態に戻り、また別の楽しいことを探そうとする。

 そして、このプロセスの最後のステップが「BBO(Bigger Better Offer:より大きくて、よりよい試み)」を見つけることだ。脳は報酬のレベルがより高い行動を選択するので、悪い習慣よりも報酬レベルが高い行動を見つける必要がある。

 その際、必ずしも新しい行動を選択する必要はない。有益から有害に変化した時点で、その行動をやめるのでもいい。

 気晴らしの行動をする際には、「どれだけ少なくて十分か」という言葉を心に留めておこう。その行動のあとにどれだけ満足しているか、自分の身体と心を確認するだけで、食べることからテレビを見ることまで、あらゆることに応用できる。

 私の研究室では、「渇望ツール」をマインドフルネスのトレーニングアプリ(Eat Right Now)に組み込んで、これを研究している。ストレスや食べすぎの習慣を断ち切ることを目的としたアプリだ。

 研究では、食べる際に注意を払ってもらい、食べたあとにどれだけ満足しているかを尋ねる。こうすることで、自分が食べた量(あるいは食べたものの種類)と、身体や心の感覚とを結びつけることができる。食べすぎがいかに無益か、また満腹時に食べるのをやめることがいかに有益かを、明確に理解するのに役立つ。

 習慣のループから完全に抜け出したいなら、異なる行動のBBOを探す必要がある。たとえば、不安を感じているなら、気晴らしの行動をするのではなく、マインドフルネスの手法を使って不安そのものに対処できる(私たちの研究では、ストレスを抱えた医師は不安が57%低下し、全般性不安障害(GAD)を持つ人は63%も低下した)。

 気晴らしをする原因となっている不安に対処することは、身体の痛みに対して鎮痛剤を服用するのではなく、根本的な原因を突き止めることに似ている。一時的に感覚を麻痺させる鎮痛剤は問題となる症状を隠し、依存を引き起こす恐れがある。

 結局のところ、このプロセスは自分の心を知るということだ。自己認識は常に力となり、脳と連動させると特に有効だ。不確実性が高まっているときは、あなたが力を尽くすためにやってきたこと、すなわち「学習」を進めることで、「不安―気晴らし」のループから抜け出そう。


HBR.org原文:Are You Stuck in the Anxiety-Distraction Feedback Loop? May 19, 2020.


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